新作『WORDLESS』についてもインタビュー
世界的チェリスト&作曲家、溝口 肇が体験した「Dutch & Dutch」スピーカーの魅力とは?
スタジオクオリティとリビングオーディオ
試聴がひと段落し、コーヒーをいただきながら、普段の溝口さんのリビングシステムの音も聴かせていただいた。
3種のスピーカーが置かれていたが、メインで使用しているというJBL C38Baronの音は、別室のスタジオやDutch & Dutchの音とはまた別種の、とろみのある気持ち良い音を鳴らしている。
アンプもマッキントッシュのC33とMC240というヴィンテージ系である。溝口さんは次のように語る。
「スタジオの方ではコストもかけて徹底して音の追求をしていますが、こちらのリビングの方では、気持ち良くなれる音で空間を満たしています。音楽が仕事なので、オンとオフですね」
オーディオファンとしては「オン」の音、つまり原音再生を実現したい欲求は当然強いが、溝口さんの言う心の拠りどころとしての「オフ」の音にも魅力を感じる。
孤独な夜は空間を音楽で満たす
最後に、溝口さんのアルバム『WORDLESS』についてお聞きした。
「言葉にならない思い」をテーマに、作曲された書き下ろしが9曲と、2019年バージョンの「世界の車窓から」が収められたアルバムである。
ひとり旅をしているような情景が浮かぶ音楽ですねと感想を伝えると、溝口さんは次のように語った。
「音楽暗いよ、と言われて30年ですが、根本のところが、 “人は結局ひとりなのかな・・・” という淋しさなのでしょう。人は夫婦であれ、親子であれ、友達であれ、生まれてから死ぬまで、ひとりなのでしょうからね。僕もひとりがつら過ぎる夜は、空間を音楽で満たすことで救われるのですよ。ただ、いくら淋しい曲を作っても、それを淋しいととらない人もいれば、落ち込む人もいます。楽しい曲を書いても逆を感じる人もいます。だから僕は、どういう風にとられるかは考えないで作ります。ただ自分がいちばん、常に考えているのは、 “美しい世界” です。音であれ、メロディであれ、美しさは追求します」
『WORDLESS』は悲しくも麗しい短調の曲が続き、最後に収録された「世界の車窓から 2019」で長調となり、慈愛に満ちた世界に包まれる。こんな美しい作品たちは、作者自身が孤独な作業の苦しみを引き受けてこそ生まれるものなのかもしれない。
が、ご自身がオーディオファンでもあるからこそ、聴き手を救うことを知る溝口さんに、美しい音楽を作り続けていただきたいと思う。
本項では、スタジオとリビングを公開し、試聴も引き受けてくださった溝口さん、誠にありがとうございました。
溝口肇 Hajime Mizoguchi
チェリスト・作曲家、プロデューサー。指揮者カラヤンをテレビで見て3歳からピアノを、11歳よりチェロを始める。東京芸術大学卒。 1986年ソニーよりデビュー。以後、クラシック、ポップス、ロックなど幅広いジャンルで活躍。テレビ番組「世界の車窓から」のテーマ曲はあまりにも有名。自身の音楽を「心の覚醒」と位置づけ、奏でるチェロの美しさ、ホスピタリティ溢れるサウンドは、ジャンルを越えて多くの人を魅了し続け、ミュージックシーンに独自のスタンスを確立している。
GRACE MUSIC LABELを主催し、CD制作、ハイレゾ音楽制作を行っている。最新鋭レコーディングにも精通し、ハイレゾ最高峰であるDSDでの制作、配信も精力的に行っている。
主なテーマ音楽など:
世界の車窓から(テレビ朝日)
ジェットストリーム エンディングテーマ(TFM)
ヨーロッパ空中散歩(BSフジ)
アルバム他:
2017年3月『Music Book』キングレコードよりリリース。
2017年12月『Almost Bach』グレースミュージックレーベルよりリリース。
2018年 世界的ジャズベーシスト、ロンカーターと共演。
2019年ニューアルバム『WORDLESS』リリース
Photo by 君嶋寛慶
本記事は季刊・Net Audio vol.37 SPRINGからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。