新作『WORDLESS』についてもインタビュー
世界的チェリスト&作曲家、溝口 肇が体験した「Dutch & Dutch」スピーカーの魅力とは?
最新のDSPと基本設計の優秀さに感心しきり
そんな完璧主義な溝口さんの耳に、Dutch & Dutchの音はどう聴こえるだろう。
リビングに持ち込んだスピーカーは、同メーカーの「8c」という、DSPとDACを内蔵したアクティブスピーカーである。一見2ウェイに見えるが、背面に8インチのサブウーファーユニットが2基搭載された3ウェイで、側面のスリットから後ろへ回り込む音波と、リアから放たれる低域の音波が干渉し合うのをキャンセルし、前方に半球状の波形を形作るという。トゥイーターの周りのウェーブガイドの巧みな形状は、開発に2年半もの月日を費やしたそうだ。
デジタル・クロスオーバーで優れた位相特性を実現しつつ、100Hzと1250Hzで分け、マルチアンプ方式で、クラスDアンプから、高域と中域には250Wずつ、超低域には500Wという大出力を供給している。8cは、こうしたデジタル技術によるコントロールと、物理的な形状・素材双方から、理詰めで設計された最新型のスピーカーなのである。
「壁からスピーカーを何cmとするか、実際にはガラス窓までは90cmですが、ピアノやテレビがありますので、60cmと仮定しました。聴感上もその方が良いようです」と、輸入元・AZオーディオのスタッフが言いながら、8cと壁との距離を設定アプリ(インターネットブラウザで使える)に入力した。トーンコントロールや24バンドのパラメトリックイコライザーでさらに追い込むこともでき、記録しておくこともできるという。
再生系としては、ワイスのDSP502をfidataとLAN接続した上で、DSP502からUPnP再生を行った。DSP502から8cへはAES/EBUでデジタル伝送。再生アプリはroon(DSP502がroonに対応済み)を使用した。
先ほど入力したDutch & Dutchのアプリ上のルームチューンをオンオフして比較試聴していただくと、「このDSPは素晴らしいですね」と溝口さん。
「無理なく作っている感が一切なくて、スムーズです。反応も速いですね。最近はコンピューターに解析させ安易に音作りをしているものが多い中、きちんと時間をかけて作られたものは、楽器と同じように素晴らしいものです。スピーカーは楽器に一番近いものですから」
もともとDSPは大嫌いだったと言う。しかしそれはひと昔前の話で、無理やり感があったから。
現在のDSPは非常によくできている、自然だと感心しきりである。
そして、スイートスポットを離れて歩きながらいわく、「これは驚いたなぁ。どこの試聴ポイントでも同じ音で聴けますね。後方と前方のコントロールの仕方が秀逸なのだと思います。スタジオでも一般家庭のリビングでも、同じ良い音で鳴っていることは、簡単なようで一番難しいことかもしれません。コンサート会場でも、良い設計の施設では、どこで聴いても良い音がするのと同じように、この8cが聴く場所を選ばないことは驚愕です」
総合的にひとことで表すと「スタジオクオリティ」であると言う。
「楽器の定位がきちっと出てくるし、劇的に変わるわけではありませんが、録音されたものをストレートに出しているんだろうなと思います。うちのスタジオに、欲しいです」
なお、8cのスピーカーとしての基本性能の高さについても、話が及んだ。「たとえDSPがないとしても元が良い。だから、リビングでふわっと聴いても大丈夫なんじゃないかな」
キャビネットが無垢材であることも大きいかもしれない。
「昔は大音量でのミックス、マスタリングが当たり前で、それに応えられるスピーカーが求められていましたが、現在は小音量時の音の良さもとても求められます。スピーカーはかなりの音量で鳴らせばそれなりに良い音がするのは当然で、私は基本、小音量でこそスピーカーの良し悪しがわかると考えています。この8cは大音量はもちろん、小音量時のバランスやレスポンスの良さがとても素晴らしいです。トゥイーターとミッドのクロスが1250Hzと低めなのも良いですね。僕は高めでクロスしていると女性の高い声の位相の違いや濁りが気になりますので、クロス低めが好みなのです」