新ドライブメカ/ディスクリートDAC/電源を1つの筐体に
目指したのは“音楽寄り”の設計思想。エソテリック新旗艦SACDプレーヤー「Grandioso K1X」の魅力を開発陣と語る
■ドライブメカは横長になり最適な配置方法を再検討
ーー それから今回はドライブメカがP1Xで新開発された「VRDS-ATLAS」になりました。このメカは重さもさることながら、サイズ的にも全体の設計に影響しますよね?
新妻 VRDS-ATLASは低重心にして振動源を下にもってくることで、回転振動の影響を低減させることが設計テーマのひとつです。これまではトレイの下に配置していたトレイシャフトを横に出すことで低重心を実現しているのですが、その分メカ全体の横幅が広くなっているので、K1Xでは電源部に使える面積が圧迫されてしまい電気部門を困らせてしまったりと、この部分はかなり苦労しました。
ーー メカが横長になったことでスペース的に影響が及ぶのは、メカに供給する電源回路の部分ですね。
加藤 そうですね。メカの電源回路は比較的大柄な部品が多く、密度からしたら少ないパートなので、何とかスペースは確保しました。実は、VRDS-ATLASはP1X用ではありつつ次に一体型が来るということを想定して設計していたので、もしこれを想定していなかったら、もっと大きなメカになっていたのです。
■“オーディオ寄り”のセパレート。一体型は“音楽寄り”の設計思想
ーー 私自身も一体型の良さというのは理解していて好きなので、これを待ち望んでいた方もかなり多いと思います。具体的にどんな音を目指したのですか? あるいはセパレート型のP1X/D1Xとの狙った音の違いや共通点をお聞かせください。
加藤 共通点としては、やはりディスクリートDACによる力強さや解像度の高さ、それから低域を中心としたダイレクトさという点になります。ただしP1X/D1Xの方は、少し実験的な要素を含んだ音の聴き方であったり、音楽よりも少しオーディオ寄りの考え方や聴き方が想定されていました。
一方、K1Xは、もう少し音楽を情緒的に聴きたいというような、もう少し温度感が高まるような狙いで開発しています。どちらも一切の妥協なく開発したものであることは間違いないのですが、目指す方角を少し変えて音作りをしています。
ーー それは実際に音を聴かせていただいて感じたポイントですね。もうひとつ気になったのが、リアパネルに新しい見かけない端子が付いているのですが、これは何に使うものなのでしょうか?
加藤 外部電源「Grandioso PS1」の増設を想定した端子です。
ーー アップグレードの楽しみが増えるという部分では期待ができるポイントかと思います。デジタル入力に関しては変更があるのでしょうか?
加藤 USB入力の対応フォーマットが1段階アップして、DSDは22.5MHz、PCMは768kHzとなりました。それからMQAも、CDとデジタルファイル入力の両方に対応します。発売時点では間に合いませんでしたが、その後のソフトウェアのアップデートで対応しました。
ーー 今回の一体型は部品点数も多いし、デジタルとアナログも混在しているので、輻射ノイズのようなものに対しても対策が必要だと思いますが、内部を見たところシールドなどで囲っている部分があまり見あたりません。これで大丈夫なのでしょうか?
加藤 音の狙いから言ったらむしろ無い方がいいですし、無くてもいいように回路設計を行っています。
新妻 あとで何かを付けたり貼ったりする必要がないようにしています。
加藤 何かをベタッと貼ったりするのは、僕らの場合は負けた時にやっています(笑)。ノイズをガードして、積極的にシールドした方が音がいいというメーカーさんもあると思いますが、エソテリックはその逆で、そういうものをつければつけるほど音が死んでいくという考え方なのです。
電源回路もたくさんフィードバックをかけて綺麗にするより、供給するスピードを阻害しないような構造を重視しています。ですから必ずしもフィルターみたいなものがたくさん入っている方がいいとは、僕らは全然思っていません。
ーー リアパネル以外で、従来モデルと外観上で区別できる部分はありますか?
加藤 フラグシップモデルは、長期的に見て価値が下がらないことが重要です。音質はアップデートしていますが、デザインは一切変えていません。
ーー 内緒で買い替えてもばれないですね(笑)。ぜひ読者の皆様も体験していただきたいと思います。ありがとうございました。
本記事は季刊・Audio Accessory vol.174 Autumnからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。