“パワーポイント70枚以上”の仕様原案をほぼ実現
パナソニック「DMR-ZR1」開発者インタビュー後編。22.2ch→アトモス変換はこうして生まれた
■「焼き付け字幕輝度調整機能」「1.3倍モード」など、痒いところに手が届く機能を搭載
秋山:次に4K HDR放送の焼き付け字幕輝度調整機能です。特許出願中とのことですが、話せる範囲で仕組みを教えてください。
則竹:大したことはやっていないのですが……。
甲野:彼の「大したことない」は、大抵は凄いことをやっています(笑)。
則竹:内容的にはHDRのトーンマップ機能を応用させています。最初に字幕の位置を検出して、それ以外の領域の映像輝度を算出します。その値が低かった場合には字幕部分をトーンマップ処理で同じ輝度まで下げる、という仕組みです。この演算処理をリアルタイムで行っています。
秋山:字幕の明るさを映像全体の明るさに合わせてくれるというイメージですね。
則竹:そうです。逆に明るいシーンでは字幕は明るいままです。
甲野:これはかなり高度な技術なのです。少し裏話をすると、この技術は、元々はJVCケンウッドさんのFrame Adapt HDR機能にインスパイアされた部分もありました。我々は従来から高精度なHDRトーンマップ技術を持っていますが、これを映像をリアルタイムに解析しながらトーンマップを可変する「ダイナミック・トーンマップ」に進化させられないかと。
しかし、則竹が実験的に作ったアルゴリズムは非常にうまく動いたのですが、最近はJVCケンウッドさんに限らず、各社のテレビやプロジェクターでもダイナミック・トーンマップ技術の採用が進みつつあります。そのため、ソース機器側とディスプレイ側で同じような処理を二度がけするのもいかがなものかと。色々と考えていた所に、則竹がこの技術を焼き付け字幕の輝度低減に応用する事を考えてくれました。これなら、レコーダーならではの機能として喜んでいただけるのではないかと。
秋山:UB9000をはじめ、これまでもパッケージソフトの字幕輝度調整ができるプレーヤーはありましたが、4K HDR放送の焼き付け字幕が眩しすぎる問題はこれでようやく解決されるわけですね。
続いてVOD周りについて伺います。まずは視聴中の画質・音質調整が可能になりました。
甲野:はい。UB9000では一足先に実現していましたが、レコーダーでは初めての対応になります。加えてZR1では、Amazon Prime Videoの4K/24p出力にも対応しました。これはUB9000には無い機能です。
秋山:私のようなディレクターズ・インテンションを重んじる人間には嬉しいアップデートですね。話が少し逸れてしまいますが、個人的にはAmazon Music HDにも是非対応してもらえたらと思います。ZR1がネットワークオーディオ再生用のトランスポートとしても大変有望だからです。ところで、昨今話題のDisney+にはサービス自体が非対応ですが、今後対応する予定はありますか?
村上:現時点では何とも言えませんが、技術的なこともありますので、今後の状況を見て検討していきたいと思います。
秋山:次にレコーダー機能についてです。今回新たに、4K長時間モードに1.3倍モードが追加されましたね。
稲垣:ストリームをそのまま記録するDRモードと違って、長時間モードでは再エンコードが必要になるのはご存知のとおりですね。MPEG-2で送信される2K放送はMPEG-4 AVCで再エンコードし、HEVCで送信される4K放送は同じHEVCで再エンコードすることになります。
DIGAでは2年前に初めて4K録画に対応したわけですが、2021年秋モデルではそのアルゴリズムを進化させました。具体的には、動きの少ない平坦なシーンでビットレートが下がりすぎないように、可変ビットレートの振る舞いを制御しています。
秋山:私のようなエンコードの仕事に携わった人間なら誰もが経験済みだと思いますが、人間の眼は動きの少ない平坦なシーンに出現する圧縮ノイズにとても敏感ですからね。テレビアニメなどはその典型で、私の時代は1カット1カット手作業で上げていました。自動でやってくれるなんて本当に羨ましい(笑)。
稲垣:ただ、ZR1はフラッグシップモデルです。2021年秋モデルには無い特別な機能を追加したいと考えました。それが「1.3倍モード」になります。
秋山:1.3倍というのは一見すると中途半端な数字ですが、ちゃんと意味があるんですね?
甲野:実は1.3倍モードを熱望したのは私でした(笑)。4K DRモードだとBDーR(25GB)に1時間番組を2本焼けない事が多いのです。でも従来の1.5倍モード(22Mbps)ではディスク容量が微妙に余って勿体ない。この問題をずっと何とかしたかったんです。
1.3倍(25.4Mbps)モードなら、25GBのディスクにぴったり2時間収まりますので、1.5倍より更に良い画質でディスクにアーカイブする事ができます。
秋山:完全に録画マニアの目線ですね。甲野さんの執念を感じます(笑)。両者の差は3.4Mbpsですが、先ほど話に出た動きの少ない平坦なシーンでは特に有効だったのではないでしょうか。
稲垣:おっしゃるとおりです。2021年秋モデルで進化させたアルゴリズムが、結果的に1.3倍モードでも上手く作用しています。
秋山:2021年秋モデルにも1.3倍モードをFWアップデートで追加する予定はありますか?
甲野:そのあたりはZR1ユーザーの反応を見て検討していきたいと思います。
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