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邦画初ドルビービジョン。カラーグレーダーにインタビュー

『シン・ウルトラマン』UHD BD、監督も「劇場と同じ」と太鼓判! こだわり満載の制作過程を聞く

公開日 2023/04/08 07:00 編集部:松永達矢
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SDRの限界を超えた画作り。ドルビーシネマ版『シン・ウルトラマン』のキーポイント



───本編公開から約1ヶ月後(6月10日)に「ドルビーシネマ版」の上映がありましたが、通常フォーマット版作業と異なるポイントや、表現できるコントラスト比の違いで、シーンの見せ方について意識した箇所があればお聞かせください。 

齋藤 先程触れた通り、『シン・ウルトラマン』はHDRフォーマットで仕上げた作品ではなく、SDRで制作した作品になります。なのでドルビーシネマ版のHDR効果というのは、後から付加したものになります。

効果として一番活用したのは「最暗部」、一番暗い箇所の黒ですね。SDRで表現できる一番深い黒を、より黒に見せたいというシチュエーションで、SDRだと限界があります。潰れてしまう黒というより、よりディープな黒というイメージです。シネスコ画角の本編の上に表示される黒帯は、HDRでテレビの性能が良ければ、テレビの縁と境目がわからないと思います。逆にSDRだと縁の黒が浮いてしまう。境目という区別がついてしまうというのがSDRの黒表現というイメージです。

映画館の上映を前提としたドルビーシネマのHDRフォーマットでは、よりリッチな黒表現を実現できました。これまでは、モニター上でリッチな黒を表現できるものが無かったのですが、ドルビーシネマを構成する映像の要素、ドルビービジョンフォーマットが出てきた時に、より深い黒が表現できるようになりました。

この作品ではその効果を活用したいというのを前提に、ナイターのシーンなど、黒表現を高めることで、魅力的な質感になるような箇所でフル活用しました。HDR効果は明るい白と深い黒、その両方にメリットがありますけど、ドルビーシネマ版作業時は深い黒側を一番使って表現力を高めましたね。

では、明るい白側はと言いますと、眩しいものがより眩しく見えるようにという効果を狙って、樋口さん、特に庵野さんから「ウルトラマンの体表の質感が、バキバキしたCGっぽい映像に見えたくない」というオーダーがありました。

上映本編でも意識されたという「ウルトラマンの体表の質感」。ドルビーシネマにおけるHDR化作業においても気を付けた点だと語る。(c)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (c)円谷プロ

今回のキャラクターデザインで言いますと、HDRの明るい白を適用してしまうと、意図と逆の質感に仕上がってしまうんですね。バキバキしたCGの質感が増してしまいます。そういうこともあり、HDRの明るい白側効果はフル活用というよりは、部分的に活用する方向に留めました。

「効かせればいいというものではない」齋藤氏の考えるHDR効果の“弱点”



齋藤 そしてドルビーシネマと、この後お話する4K UHD収録のドルビービジョンフォーマットでの大きな違いはやはり「視聴環境」ですね。ディスクメディアの鑑賞はテレビ、明るい部屋という環境が主だったものになると思いますが、グレーディングの際もそこをシミュレーションした上で画を仕上げていきます。逆に映画用の仕上げ(ドルビーシネマ)になると、部屋を真っ暗にして、劇場と同じ環境で追い込んで行きます。重要なのは「各々の視聴環境でどう見えるか」というところに尽きます。

そのポイントが、個人的にHDRの弱点とも捉えている要素ですね。これまでの表示機器では表現できなかった明るさをHDRで表現できるようになるというのは、つまり、映像の光の表現が自然光に近づいていくということです。視聴環境が自然の光が差し込むような場所でテレビを見るとなると、明るい画面の方が見やすいですよね。逆に、映画館は真っ黒じゃないですか。その状態で自然に近い光が目の前に現れると、人間の目が混乱するんです。

例を挙げますと、車でトンネルに入った際に起きる「明順応・暗順応」ですね。映画館の観客の目は暗い環境で物を見るようにアジャストされている中、眼前に自然の光が現れたら人間の目が無意識的にアジャストしようとする。これを上映尺で繰り返していくと鑑賞後に疲れてしまいます。

タイトルは伏せますけど、洋画でHDRをフル活用した作品を観た際には、すごく疲れてしまいましたね…。明暗差が激しい映像が目の前で何度も繰り返されて、肩が痛くなって…(笑)。その経験の中で「映画館の中でこのスペックを使い切るには、2時間は長いな」という学びを得たりもしました。

「人間の目はHDRにまだ順応できていない」と語る齋藤氏。演出する際の見せ方も気を使ったという

───HDRをフルで効かせる場合、CMやミュージックビデオなど、短い尺のコンテンツで使用する分にはウケが良いという話を、他の取材で伺った覚えがあります。 

齋藤 人間の目が最新技術に対して追いついてないと思います。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』ドルビーシネマ版も僕が担当していますけれども、2時間35分の尺でドルビービジョンのスペックを使い切ったら絶対疲れると思います。実際に「1回スペックを使い切ったものを観てみよう」と試してみたら、とてもじゃ無かったですけど目が持たず、「これは長時間の鑑賞には厳しい」となりまして…。

HDR効果を最大に効かせた映像をチェックし続けた後、外へ出たら、目に残像が焼き付いていた、なんてこともありました。なので、HDR効果も効かせればいいというものではなく、観ていて疲れないというのを汲み取りつつ、効果的なポイントで出していくというのが重要なのかなと思います。

注目は「ザラブ戦」。4K UHD盤収録のドルビービジョン『シン・ウルトラマン』に迫る



───4/12に発売を控える4K UHD盤に収録されるドルビービジョンフォーマットは、家庭での視聴を念頭にマスター映像から改めて再調整を施したとのことですが、以上のお話を踏まえると、劇場のような暗い環境では無く、明るい環境で作品を観ることを前提とした調整を行ったという解釈でよろしいでしょうか? 

齋藤 そうです! 実際にグレーディング作業も一般家庭の明るさをシミュレートしてやっています。

───ちなみに、今回のパッケージのグレーディング作業というのは、各本編のグレーディング作業に付随して行われた形ですか? 

齋藤 いえ、ドルビーシネマ版のグレーディングは公開時期の着手でしたが、今回パッケージに収録されるドルビービジョンのグレーディング作業は作品の公開後、10月頃に行いました。なので、各フォーマットに付随してという事はなく、パッケージ収録版のためだけに行った「特別対応」というところですね。

小西 前段でお話していただいたパッケージの仕様を詰めるという段階が夏ぐらいでして、「ドルビービジョンで収録しましょう」となったのも、時間軸的には本編公開後になります。東宝さんとカラーさん、弊社(円谷プロ)で話し合いをした結果、「パッケージの差別化」という観点でも、ラージフォーマット上映(ドルビーシネマ)を踏まえて採用したという流れもあります。

一般家庭の照明をシミュレートした環境で、4K UHD盤収録のドルビービジョングレーディングを実施。テレビでのリファレンスとして4K有機EL“REGZA”「65X830」を使用

───家庭のテレビやプロジェクターで4K UHD盤収録の『シン・ウルトラマン』を視聴するにあたって、特に注目すべきシーンや、ポイントなどがあれば教えてください。

齋藤 まず注目していただきたいのは、にせウルトラマンとのバトルシーンですかね。こっちは普通のSDRのテレビでは表現できない黒、暗い部分がより暗くなっていますけど、ディテールはすべて保持しています。今までの環境(SDRフォーマット)では絶対にできない映像表現ですね。

(c)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (c)円谷プロ

CGの質感というポイントを考えても、画を明るくすると質感がチープになります。ただ暗くしたいというよりは、質感をリッチにするために黒をちゃんと作り込むというアプローチです。ドルビービジョンという規格であれば、安心して画を暗くできるというのもありました。

にせウルトラマンの擬態が解けたザラブとの飛行シーンにしても、暗すぎると背景が潰れて「飛んでいる」という画も薄れてしまいます。あとは、スペシウム光線のくだりでは、今までより眩しい光を出せていますし、ナイターという情景も相まって「リッチな黒と眩しい白」を表現できたHDR効果を両方出したシーンになります。

シーン的には前後しますが、ウルトラマンが地球に降着して、ネロンガにスペシウム光線を浴びせるシークエンスもポイントです。こちらはハイライト表現、明るい部分の効果を見ていただきたいところでして、こちらは陽光下でスペシウム光線を打つわけですが、明るい中でも光線の輝きが際立つという部分に注目頂ければと思います。

撮影条件を揃えてマスターモニターの状況を撮影。左の写真がSDR、右の写真がHDRのもの。光源のピーク輝度や、暗部の表現に差が表れる

今回のパッケージに収録される4K UHD盤は、ドルビーシネマを劇場でご覧になった方からすれば、家の環境で同じように観ることができますし、逆に劇場でご覧になれなかった方は、これを観ておけば間違いないというところは強調しておきたいです。劇場に足を運べなかった分、ドルビーシネマ鑑賞料金をパッケージ購入代に充てて頂ければ…(笑)。

次ページ意識したのは「統一感」『シン・ウルトラマン』のパッケージデザインのこだわり

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