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鈴木裕 的 iFI-Audio「Pro iCAN」活用術。工夫次第で何通りもの音を手に入れられる!
音楽的な表現力を向上させるプリアンプとは?
続いて、普通であればPro iCANに登載されている「3Dホログラフィック(空間補正)」と「XBass(低域補正)」の、それぞれ4段階に切り換えられるモードについて説明するところだが、少々異なる視点からPro iCANの魅力をお伝えするために、ここでプリアンプそのものの役割について説明してみたい。
プリアンプというと、プレーヤーやUSB DACとパワーアンプの間に位置するもので、機能的な役割としてはセレクターと音量調節ということになる。プリによっては、トーンコントロールや左右のバランス、低域補正、正相/逆相の切り換えなどを持っているものも少なくない。しかし、最大のオーディオ的な役割は音楽をより生き生きと鳴らし、音楽と聴き手の距離を縮めたり、といったところにあると筆者は感じている。不思議なのだが、いいプリアンプはプレーヤーから送り込まれた音楽信号の分解能を高めたり、音の静けさ感を上げたり、彫りを深くすることができるのだ。
あるいはこんな言い方もできる。スピーカーを鳴らしている時に見えているサウンドステージや音像。このデッサンや色の塗り方を左右するのがプリアンプである。音像を描くのが太めの線なのか細めの線なのか。音の温度感が温かいのか冷たいのか。音場は左右のスピーカーを結んだ奥の方にあるのか、手前側に張り出して来るのか。客観的/冷静に音楽を聴かせるのか、主観的/没入的に音楽を体験させるのか。こういった要素をコントロールするのがプリアンプである。
興味深いのは、例えばAとBという二つのプリアンプを直列に入れたシステムを組んでみる。つまり、プリーヤー→プリA→プリB→パワーアンプ→スピーカーというシステムである。邪道と感じる人もいるだろうがやってみるとなかなか興味深い。AとBのボリュームの上げ方で、デッサンや色の塗り方、温度感が変化する。つまりボリュームをより上げた方のプリの音が支配的になってくる。音の純度的には下がるのだろうが、純度だけが唯一絶対の尺度でもない。
ただし、ここにひとつの条件があって、プリ自体がいいバッファーアンプ部を持っていないと、いま書いたような楽しい体験にはならない。そして、そういう意味でPro iCANは楽しいプリアンプなのだ。この値段でこのことを実現できているのは凄いことじゃないかと思う。