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<山之内 正のIFAレポート>革新的なコントラスト比向上を実現した各社液晶テレビが目玉

公開日 2008/09/03 21:42
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8月29日から6日間にわたって一般公開されたIFA2008は今日(3日)幕を閉じる。隔年から毎年開催になって規模が縮小されるかと思いきや、現実にはそれとは逆に徐々に規模を拡大、今年はついに洗濯機などホームアプライアンス分野まで展示の領域を広げてきた。後半になっても会場はまだ活気を失っていない様子なので、来年以降もこの勢いでさらに拡大を続けて行くことになりそうだ。世界の家電見本市として特異な存在と言えるだろう。

欧州経済の先行きが不透明ななか、来場者の強い関心を引き付けることができたのはなぜだろうか。その最大の理由は薄型テレビを中心に根強い購買力が欧州各国に存在し、それがまだ衰えを見せていないことにありそうだ。特に液晶テレビの伸びは着実なものがあり、プラズマやプロジェクターなど他のディスプレイも現状を維持している。その需要に刺激されて、AVアンプやスピーカーなどホームシアター機器の動きも堅調だという。各国ごとに事情が異なるので簡単に結論を出すことはできないが、平均するとAV機器市場を支える需要は依然として活発なものがある。

その人気を支える液晶テレビについては、IFAで大きな進展があった。ソニー、フィリップス、シャープなど複数のメーカーがLEDバックライトシステムやLEDの部分発光制御技術を導入した製品を公開し、ビクターも同技術を用いた試作機を展示するなど、液晶テレビ史上かつてない水準のコントラスト改善が現実になったのである。

LEDバックライトの部分制御を取り入れて200万:1の高コントラストを実現したフィリップスの液晶テレビ。ラスベガスの夜景で明暗差を強調。黒浮きは皆無だ

高輝度LEDバックライトは消灯時には深みのある黒を再現できるため、各社が発表しているコントラスト比の数値は100万対1を超えている。部分駆動の詳細は各社各様で、画面全体をいくつのエリアに分割しているかすら明らかにしていないメーカーもある。そうはいっても実際に展示されていた製品を見る限り、進化途上の技術というわけではなく、十分な完成度をそなえていることがわかる。

各社のブースでじっくり見比べたなかで特に画質面で強い印象を受けたのは、ソニーとシャープの製品。画面サイズは微妙に異なるが、展示モデルの映像からは、自然な階調表現を見せるアクオス、細部まで高いコントラストを確保したブラビアという印象を受けた。いずれの製品も発売までまだしばらく時間があるので、今後の画質のブラッシュアップが楽しみである。

ソニーのX4500シリーズはLEDバックライトの部分駆動技術を導入。吸い込まれるような深い黒を再現していた

ビクターはLEDバックライト搭載機の映像を従来モデルと比較。黒の自然な沈み込みとコントラスト感の高さが明るい会場でも明確にわかる

階調がなめらかなシャープのXSシリーズ。斜めから見ても黒浮きはまったく気にならない

ビクターの展示は技術発表のみだが、180Hz駆動のデモンストレーションとともに、注目に値する成果を上げていたと思う。フィリップスは、アンビライト機能など製品全体としての完成度は高いものの、画質面では表面処理による反射と若干のぎらつきが気になった。200万対1という数字にこだわったのか、ピークの明るさがやや過剰なように思われる。

プラズマディスプレイはパナソニックが大型高精細モデル(150インチ)や超薄型パネルを展示し、大きな注目を集めたものの、今年はパイオニアが不参加のため、松下の孤軍奮闘という印象が否めない。CESではパイオニアのコンセプトモデルが強いインパクトを与えただけに、残念な気がする。欧州では液晶テレビの人気に押され気味とはいえ、プラズマテレビも大きな市場規模を持っているだけに、来年以降の動向が気になるところだ。松下とパイオニアの技術提携がどのような成果を生むのか、注目する必要がある。


ソニーブースは空間演出が巧み。来場者が長くとどまる傾向がみられた
ディスプレイに限らず、今年のIFA全体で大きな存在感を示したベスト1はソニーである。昨年はディーラー向け中心の地味な展示、一昨年は出展なし、さらにその前年は独創的だが焦点のはっきりしない展示という具合に、このところIFAではソニーの存在感が薄れていたのだが、今年はまったく違った。物理的な空間の大きさもさることながら、巧みな空間演出と様々な仕掛けが功を奏し、来場者に強い印象を与えることに成功したのである。広大なIFAの会場のなかでは動線がスムーズに流れるように会場を設計するメーカーが多いのだが、その半面、通り過ぎてしまうだけの来場者も少なくない。ソニーは独立した空間をさらに二重に仕切り、一番内側の空間は照明を落として壁面にスケールの大きい映像を映すなど、いろいろな工夫を凝らした。何が起こるのかというわくわく感を盛り上げる演出で、来場者は自然に足を止め、まわりを見回すことになる。そこに用意されている製品自体の魅力ももちろんあるのだが、それ以上に演出のうまさが際立っていると感じた。

ソニーの展示が成功を収めたもうひとつの理由は、サウンドと映像を巧みに組み合わせていることにある。昨年までと同様、AVメーカー各社の展示はテレビに重点を置いているため、見かけは派手だが、実は空間としては変化と起伏に乏しく、ブランドごとの個性が浮かび上がりにくい面がある。一方、ソニーは会場全体をまずサウンドで演出し、自社のオーディオ製品をブース内に巧みに配置することによって、他社との差別化を図り、成果を上げたのである。映像機器の割合が格段に増えたものの、IFAは以前はオーディオが大きな比率を占めていた。そのことに寂しさを感じていた来場者も少なくないはずだ。ソニーの今回の演出は、そうした潜在的不満の解消に一役買ったのかもしれない。かつてはフィリップスも今回のソニーのように音と映像を組み合わせたダイナミックな展示を行っていたが、最近はビジネスライクに傾きつつあり、あまり面白みがない。一般来場者の比率が他のコンベンションに比べて圧倒的に多いのがIFAの特徴だが、ソニーの展示はまさにIFAの場にふさわしいものだったように思う。

(山之内 正)

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