DSPも刷新
マランツ、13.2ch対応の旗艦AVプリ「AV8805」。全chにディスクリート独立基板、HDMI 2.1対応も
このブロックコンデンサーの開発にあたっては、数値上の性能確保はもちろん、サウンドマネージャーの尾形氏が音質テストを繰り返した。このブロックコンデンサーを、ステレオアンプでは2基搭載するところを、マルチチャンネル・アンプに最適な容量と高速な電源供給のバランスを加味した結果、容量10,000μF/35Vのコンデンサーを4基搭載している。
また、高山氏はAV8805がプリアンプにも関わらず、高級プリメインアンプ級の電源を搭載している点について、「音楽ソース以上に信号の変動が大きい映像ソースの再生において、プリ部がその変動に追従するためには強力な電源が必要であり、クオリティにも直結するのです」と説明していた。
■フラグシップとして筐体の剛性も高めた
フラグシップとして筐体の剛性にもこだわった。筐体の剛性を高め共振を抑制する3ピーストップカバーを採用し、筐体上部には前後に渡って2本のステー(梁)を設けてさらなる剛性を確保している。
前面部は、フロントパネルの内側に“インナーフロントパネル”を設け、また、メインシャーシはボトムプレートを加えたダブルレイヤードシャーシとしていずれも強固な二重構造としている。これらの徹底した対策により不要振動を排除する。
■高周波ノイズコントロールを徹底/厳選された高音質パーツ
尾形氏は「デジタル回路、映像回路、ネットワーク回路などが同居するAVアンプは、Hi-Fiアンプに比べてノイズ源が山積みになっているので、これらのノイズの影響をいかに排除するかが高音質化のための重要なノウハウになる」と語る。本機においても、厳重なノイズ対策が各所に施されている。
デジタル回路専用の電源には、動作周波数を通常の約3倍にして、スイッチングノイズを可聴帯域外へ追いやることで低ノイズ化したSMPS(スイッチング電源)を使用。アナログ回路への干渉を排除している。
DAC回路を専用基板としたこともノイズ対策のひとつで、シールドを設けて回路間のノイズ飛び込みも抑制。電源ラインに流入するノイズはデカップリングコンデンサーを用いて除去している。コンデンサーは聴感テストで種類や定数を厳選し、導電性ポリマーコンデンサーや薄膜高分子積層コンデンサーなども多数採用された。
また、メインシャーシには銅メッキを施し、さらに独自のグランドラインを設けるなどして低インピーダンス化も徹底。基板やシャーシを固定するビスやワッシャーの種類を使用する箇所に応じて変更することで、インピーダンス調整を行うというノウハウも用いられている。低インピーダンス化によってグランド電位を安定させて、低ノイズかつ揺らぎの少ない音質が実現できるという。
■情報量がさらに増え、空間の遠近を克明に描き分ける
短時間ながら、試聴室にてAV8805のサウンドを確認することができた。試聴では従来モデルのAV8802との比較を実施。パワーアンプは、日本未導入の同社製7chパワーアンプ「MM8077」が2台組み合わせられた。スピーカーは、11.2ch対応のAV8802については7.1.4ch、13.2ch対応のAV8805は7.1.6chのシステムを構築(トップミドル以外は同様のスピーカーを仕様)。この2つのシステムで聴き比べを行った。なお、いずれもピュアオーディオモードでの再生で、Audysseyによる音場補正はオフで聴いた。
まずはドルビーアトモスのデモディスクに収録された「Amaze」を再生。雨の音の細かさなど情報量においてAV8805の方が1枚上手で、空間も一回り大きく感じる。スピーカー構成も異なり、雨の降る位置などに耳を傾けると、レンダリングされた位置にもそれなりに差があり、純粋なアンプ性能の比較以外の要素もあるだろう。しかし、対応ch数の増加も含めての進化であり、この差はかなり大きいと感じた。
特に差が出たのが終盤の最低域の表現。地鳴りのような音が、AV8802ではひとつのかたまりとして聴こえるのに対して、AV8805では複数の音のレイヤーで構成されていることがよく聴き取れる。
続いてUHD-BD『ブレードランナー』を再生。こちらもチャプター28の雨のシーンを主に試聴したのだが、目をつぶって雨音に集中すると、AV8805のほうが雨音が細かいことがよくわかる。