高知県産・孟宗竹を使用
デノン、“竹” 採用の新フラグシップヘッドホン「AH-D9200」。“蛇口全開のオープンな音”
削り出したハウジングは、「生地研」という研磨作業がまず行われ、次に、表面の微細な凹凸を意図的に作り出す「うずくり」という作業が行われる。続いて「目止め」で木材特有の水分が通る導管を埋める。
続いて、下塗装およびロゴバッジを埋め込む溝をレーザーで刻印、金属製のDENONバッジを貼り付ける(インレット)。バッジを貼り付けて、竹およびバッジにさらに塗装するのだが(プライマー)、ここでバッジにも竹と同様の塗装強度を持たせるのに苦労したという。
最後にツヤ消し処理を行うが、このツヤの加減についてはデノンから詳細な要望があり、ベストなツヤ加減を実現するために試行錯誤があったと山本氏は語っていた。このようにして孟宗竹ハウジングは出来上がるのだが、長さ約2.2mの竹の切り出し材から、ハウジングが7、8個(ヘッドホン約4台分程度)作り出せるのだという。
ちなみに竹は成長も早く、素材そのものの原価はそれほど高くはないが、物性を安定させて品質の高いハウジングとするためには一般的な木材よりも多くの工程、専用の処理が必要となるため、むしろコストはかかってしまうとのことだった。
ディーアンドエムの竹野氏はこうして作られる孟宗竹ハウジングについて「自動車用の部品においては、例えば温度については零下から高温まで物性が変化しないことが求められるなど、品質の基準は非常に厳しい。そこで鍛えられたノウハウがあるから、ハウジングとしても非常に高い品質のものを提供してもらえる。寸法精度も非常に高い」と、その品質に絶対の信頼を寄せていた。
■ハウジングに合わせてドライバーも最適化
孟宗竹ハウジングに合わせて、50mmナノファイバー・フリーエッジ・ドライバーもブラッシュアップが行われた。より高域を伸ばしたいという目標のもと、ナノファイバーの配合比率を1%刻みで調整しつつサウンドマネージャーの山内氏が試聴を繰り返し、ベストな配合比率を決定したという。また従来以上に歪みを抑えるため、振動板の形状も改善。センターの膨らみのカーブをなだらかにして、振動板のピストン動作をより正確に行えるようにした。
■白河ワークスでの組み上げ・検査・梱包
孟宗竹ハウジングをはじめとする各パーツは、白河オーディオワークスに集められ、多くのスタッフから選抜され、たった1名の担当者の手によって組み立て・検査・梱包までが行われる。AH-D9200の製造は8月上旬から始まったが、担当者は本機の組み上げのための特別な教育・研修をその前の数ヶ月にわたって受けることになった。1名の手で行われているため、1日に組み上げられるのは多くて20台。ただし、1名だからこそ個体にバラつきが出ることがなく、極めて高い品質・精度を維持するできるとのことだ。
■AH-D9200の音を聴いた
発表会会場で、短時間だがAH-D9200を試聴することができたので、ファーストインプレッションを記しておきたい。DAC/アンプには同ブランドのDA-310USBを用いた。同環境でAH-D7200との比較も行えた。
AH-D9200は一聴して音数が非常に多く、そして実に開放的に鳴る。音場は密閉型とは思えない広さで、なおかつ広がり方は自然。高域の繊細な質感も印象的で、音量を上げても歪みっぽさがない。楽器の余韻も美しいのだが、そこに色付きや余計な響きが乗ることがなく、見通しもとてもクリア。中低域は立ち上がりが早い。ベースは量感は欲張っていないが十分に深く沈む。
AH-D7200も優れた解像感を備えているが、聴き比べてみると、解像感だけでなく、高域の伸び、トランジェントの良さなどでAH-D9200が数段上と感じる。またAH-D9200は開放的に鳴り、AH-D7200はより密度感がある印象となる。その意味で、AH-D9200の高解像度かつハイスピードでさらりとした質感は、むしろAH-D5200の延長線上にある音といって良いだろう。
低域はAH-D7200のほうが量感は多く感じる。立ち上がりがAH-D9200の方が早い分、AH-D7200は粘りやディープさを感じる低音で、密度感や低域の粘りを求めるならAH-D7200が好みという方もいるだろう。ただ、AH-D9200が全帯域にわたって引き出してくれる情報量は段違いで、その点には驚かされた。
デノンの新しいフラグシップとして、価格もハイエンドクラスだが、そのサウンドも説得力のある、価格の近いヘッドホンと比して優れたものだと感じた。追って詳細なリスニングレポートもお伝えしたい。