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高知県産・孟宗竹を使用

デノン、“竹” 採用の新フラグシップヘッドホン「AH-D9200」。“蛇口全開のオープンな音”

公開日 2018/09/07 11:00 編集部:小澤貴信
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孟宗竹ハウジングについては「やりたい方向と上手くマッチングした」とのこと。初めて孟宗竹ハウジングのヘッドホンの音を聴いたときには「蛇口全開のオープンな音で、なおかつ非常にクリア」と好感を持った。

AH-D9200のパッケージ

AH-D9200ではこうした特性も活かして、「何よりナチュラルで繊細、広がりや透明感のある音」を目指した。またフラグシップとしてふさわしい上質感や高級感も併せ持っているとした。「曲によってはスピーカーで聴いているような錯覚を持つはず」とも述べていた。

孟宗竹ハウジングの詳細 − なぜ竹をヘッドホンに用いたのか?

新しいフラグシップヘッドホンで竹製ハウジングを採用した理由は、前述のように竹が「軽量性」「適度な剛性」「優れた振動吸収性」の3点を備えていることだった。竹野氏は「竹はウォールナットと比べてもさらに振動吸収性が高い」と説明。実際に振動の度合いを測定し、比較した結果も示された。

抱えられているのが孟宗竹。その大きさがわかるだろう

直径は20センチほど。持ち上げてみると重量もかなりのもの

また竹は成長が早く、入手もしやすい。伐採しても資源を回復させる時間も短くてすむ。希少な木材の取引が国際的に規制される事例も増えるなかで、優れた音響特性を備えつつ継続的かつ安定した供給が可能な点、環境負荷が小さい点も、竹が選ばれた理由のようだ。

そもそも竹という素材に着目したきっかけだが、AH-D5200の開発にあたって多種多様な木材を吟味している際に、竹が上述のようなヘッドホンのハウジングとして重要な要素を備えていることに注目。AH-5200ではそのコンセプトや価格帯から別の素材が採用されることになったが、従来の最上位機の価格帯を大きく超える“新しいフラグシップ”の企画が持ち上がった際に、改めて竹を用いるアイデアが浮上した。

孟宗竹の竹林。成長が早く、竹林も人の手による厳格な管理が必要だという

ただし、竹は扱うのが非常に難しい素材。含水量が竹1本1本で異なることもあり、物性を安定させるためにはノウハウが必要となる。そこでデノンが注目したのが、レクサスなどの高級乗用車に高知県産の孟宗竹を用いたハンドルを納入するなど、木材加工全般において優れた技術を持っている(株)ミロクテクノウッドだった。結果として、同社が孟宗竹ハウジングの製造を担当することになった。

竹野氏は「竹材を使った加工品を手がけるメーカーは中国など国外にもあり、そちらも検討したが、竹は品質の管理が難しく、国外の企業に委ねるのは難しいことがわかった。その中でどうやって竹ハウジングを実現するか模索しているときに辿り着いたのがミロクテクノウッドだった」と説明していた。

孟宗竹から切り出したラミナ

孟宗竹は、高知県の温暖な気候の中で、適切な管理の下で育てられた竹だ。竹というと直径10センチ程度のものを想像してしまうが、孟宗竹は直径が20センチはありそうな太いものだ(高さは20mを超えるという)。加工の方法は後述するとおりだが、ハンドルやハウジングの素材となる竹のラミナ(集成材を構成するための小さな角材)を切り出すためにはこのサイズが必要というのも、孟宗竹が用いられる理由だ。

自動車分野で磨きあげられた竹材加工技術が用いられた

発表会では(株)ミロクテクノウッドの山本敦氏も登場。優れた木材加工技術を備える同社の背景や、AH-D9200に用いられた孟宗竹ハウジングの加工方法について説明してくれた。

ミロクウッドテクノはミロクグループの企業で、ミロクはライフルやショットガンなどの猟銃の製造を100年にわたって手がけてきた会社だ。猟銃の銃床は木製であり、この銃床の加工を通じて優れた木材加工技術を培ってきたのだという。この木材加工技術を活用して、高級自動車のハンドルなどを製造するために1999年に設立されたのがミロクテクノウッドだという。同社は当初、胡桃やメイプルなどの木材を使ってハンドルを製造していたが、6年ほど前から孟宗竹のハンドルを手がけるようになった。デノンが竹素材を模索する中で同社に辿り着き、今回のコラボレーションが実現した。

ミクロテクノウッドの概要

自動車向けに木製ハンドルなどを製造する

孟宗竹ハウジングの製造方法の詳細についても話を聞くことができた。上述のように孟宗竹は太さが20センチほどあり、切り出した状態では1つのピースが長さ2.2mほどとなる。この竹を縦に切り出して、大元の材料となるラミナを作る。

乾留釜でラミナを処理しているところ


ただし、切り出すだけではラミナにはならない。含水率を最適化して物性を安定させ、なおかつ殺虫も行うために、乾留釜で複数回にわたって加熱処理を行う。その後に、蒸気による処理で成形と乾燥を経て、初めてラミナができあがる。乾燥に時間がかかるため、竹を切り出してからラミナになるまで1ヶ月ほどの時間を要する。

孟宗竹ハウジングの製造工程 ー 職人技の手作業で仕上げていく

このラミナを26枚積層することで、10cm四方の竹の積層材ができる。これを切り出してヘッドホンのハウジングをつくりあげていくのだが、8つほどの工程のうち最初の削り出しのみ機械加工で、あとは手作業で行われる。

右がラミナを26枚積層した角材。これを左のように機械加工で削り出す

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