液晶テレビ「50年ぶりの革命」の真価とは
「AQUOS クアトロン」は一体何がすごいのか − 革新的な技術の全貌に迫る
鴻池賢三が感じた「クアトロン」の実力
映像装置で金属の光沢感をリアルに表現するのは難しいものだ。例えば、銀色という色は存在せず、白の明暗でテクスチャーを表現しているに他ならない。この金属の光沢感を表現するのに大きく関わっているのは「明るさ」である。クアトロン技術は、シャープ独自の開口率が高いUV2Aパネルをベースに、従来のRGBに加えてYのサブピクセルを持つ。バックライトの光をより効率的に取り出す事で、黒の締まりや省エネを保ちつつ、コントラスト感の高い「明るさ」を得たというわけだ。実際に映像で確認するなら、管楽器など、曲線が豊かな金属素材に注目すると良いだろう。明暗のスムーズな階調再現とピークの絶対的な明るさで、今までにないリアルな質感が体感できるはずだ。金属の他にも、ガラスや水面など、透明感と反射によって質感を感じさせる素材の表現力は秀逸だ。リアルかつナチュラルな表現が、観る者を映像の世界に引き込む。
人間が立体を感じるのは、立体視用メガネを用いる両眼視差だけではない。動きによる視差、画面の大きさなど、立体と感じるには様々な要素がある。中でも、2D映像で重要なのはフォーカス感だ。被写体にピシャリとピントが合っていれば、ボケを効かせた背景のとの対比で浮かび上がってくる。この場合のフォーカスとは、ソース本来が持つ精細感、遠近のボケ度合いをも正確に引き出すと言う意味合いで、電気的に被写体の輪郭を誇張したり、その結果、ボケ味を堅く殺してしまうのとは正反対の行為である。
4原色をサブピクセル単位で考えると、1,920×1,080×3(約622万画素)が、1,920×1,080×4(約829万画素)となり、物理的に約207万画素多い。映像エンジンとサブピクセルの輝度コントロールし、フルHDを超える約829万サブピクセルを有効利用する事で、見せかけではない精細感の向上を達成しているのだ。実際に店頭で確認するなら、フォーカスのコントラストに意図を込めた映画作品がいい。テクニカルには、クリスタルガラスのカットの先鋭感、曇りの無い透明感に着目すると良いだろう。
クアトロン技術では、RGB3原色によるカラーテレビ50年の歴史を塗り替える「4原色」が画期的で、その第4の色には黄色が選ばれた。テレビにおいて、黄色の再現領域を広げるには、赤と緑の再現領域を広げれば不可能ではないが、よりピュアな赤や緑を再現するには、光の利用効率が落ちてしまう。そこで、新たに黄を加え、無理なく黄色の再現性を高めたところに、4原色化の狙いがある。また、黄色の効用は、映像に含まれる色成分の中で黄色の出現頻度が高い調査結果と符合する事、目の感度特性より明るさへの貢献度が高いなどの実利がある他、実は黄色に余裕が出来た事から、緑を黄色の反対色である青側にシフトでき、結果としてより深いシアンも表現できるようになっている。実際の映像なら、南国の空と海がいいだろう。微妙な色合いの違いが驚くほど豊かでナチュアラルに描き分けられるのに気づくはずだ。黄色だけなく、全ての色がよりリアルに感じられるのがクアトロンの真骨頂と言えるだろう。
※本記事は「AVレビュー」2010年7月号・8月号に掲載した内容を再構成したものです。