液晶テレビ「50年ぶりの革命」の真価とは
「AQUOS クアトロン」は一体何がすごいのか − 革新的な技術の全貌に迫る
山之内 正 氏(プロフィール) 鴻池賢三 氏(プロフィール) 小池 晃 氏 (シャープ(株)AVシステム事業本部 要素技術開発センター 第二開発部 副参事) | |
明るさを確保すると同時に
コントラストも向上した
−− 本日はお二人に「LX」を視聴していただきました。LX、LV、XFに採用されている「クアトロン」の効用はどのあたりに感じられましたか?
鴻池 以前のモデルと比べて大幅に明るくなったことが非常に大きな効果を発揮していると感じました。輝度が上がった一方で、黒もしっかりと沈んでコントラストを確保しています。白ピーク部も単に飛ばすような出方ではなく光るところがしっかりと光っており、クリスタルの質感や金属の質感が表現できています。特に感心したのは黄色と金色の描き分けがきちんとできていることです。スッキリと透き通った、非常にピュアな金色が出ていました。
山之内 私も同意見です。
鴻池 映像によっては色の強調度が強いように感じたものもありましたが。
小池 撮影側でゲイン損失が発生した映像ではそのように感じられるケースもあるでしょう。受像器側ではゲイン損失された映像の色を適正な色に戻しています。この伸長の方法は各社独自のノウハウにより映像処理をしているもので、当社は肌色などの記憶色は自然に再現し、色鮮やかな被写体はより鮮明に表示をするよう信号処理を行っています。今回開発した4色マルチカラー表示のクアトロンでは、3原色で表示できる領域は従来通りの考え方で自然且つ鮮明な色の再現を継承した上で、ひまわりやタンポポ、輝く金属などの明るく鮮明な黄色を、さらに鮮やかに表示できるようにしました。
鴻池 映像の存在感、暗いシーンでの階調、ネオンやライトの光り方。視聴を通じて良い印象を持ったシーンはいくつもありますが、これらは明るさやコントラストを確保できているからこそ可能となったという印象を持ちました。解像度的にも編にエッジが立てられた画ではなく、余計な強調感のない「一枚皮を剥いだような」自然さが感じられました。
山之内 『シャネル&ストラヴィンスキー』をLXで観た印象をお話ししましょう。この映画はフォーカスと構図が高度に計算されており、ディスプレイの表現能力が問われる作品です。
−− 印象はいかがでしたか?
山之内 結論として、LXは視聴者に見せるべき多くの要素をきちんと表現できる製品だと感じました。この作品には、モノトーンの家具やインテリア、真っ黒なピアノなどが用いられています。こういった要素の中で人物の表情を描き分けるのは非常に難しいのですが、LXで観ると、実に自然な描写で映像を表してくれます。特に感心したのは、精細感の高さや背景〜人物間のフォーカスの合わせ込み具合が絶妙だったことです。
小池 サブピクセルを追加したことでよりきめ細かな表現が可能になったということだと思います。今回のモデルでは「フルハイプラス」機能があり、斜め線をより滑らかに映し出せます。この機能はオン・オフ可能ですが、オンにしなくても、物理的な構成要素が増えた分、緻密さのベースが増しています。
山之内 実際の画を観ても、エンハンスを強引にかけたような人工的な処理とは異なり、ソースに本来備わっていたであろう精細感が出せていると感じました。
鴻池 シャープな画だけを実現しようとすると、フォーカスが甘くなるべきところがそのようになりません。つまり、奥行き感が犠牲になっていました。ところが「クアトロン」技術が採用されたディスプレイでは、この部分が見事に改善されていますね。
CCFLモデルでは
不可能な表現が可能に
山之内 『きみに読む物語』でコントラストと色の出方をチェックしました。作中に出てくる観覧車の金属やフレームの質感はきちんと表現できていましたし、黄色やオレンジ色もイメージ通りに出ています。肌の明るさや人物の表情も「ハッ」とさせられるほど生き生きとしている。従来のCCFLパネルと今回のLEDパネルの表現力の違いも明確に感じられました。
小池 光源の光り始めの箇所や、暗い肌色もリアルに再現できます。全黒に近い髪の毛の細かいディテールなども出せるようになりました。
山之内 『シャネル&ストラヴィンスキー』には、主要人物2人を非常に暗い部屋の中で正面から映し出すシーンがあります。ここで従来モデルとの比較を行いましたが、想像以上に暗部表現力の差が出ていることが確認できました。
鴻池 そうでしたね。
山之内 心理描写を映像そのもので読みとらせるシーンがこの作品には多いのですが、そういった技巧を観る人にきちんと伝えるためには、階調表現を始めとする各要素をきちんと製品に反映させる必要があります。それが見事にできているのがシャープのディスプレイだと思います。
鴻池 従来のモデルでは、暗いシーンの光純度が下がって、モヤッとした不自然な映り方になってしまいます。ところが「LX」では非常にリアルで自然な映像を楽しめるようになっていると感じました。
小池 UV2A以前のパネルでは黒側再現時に光漏れが発生し、その影響で色が薄くなりがちでした。そういった状態を補うために色の味付けを濃くせざるを得ない面もありました。
鴻池 今回のモデルでは、過度の装飾を施す必要がなくなったということですね。
小池 はい。また、CCFLの場合、光源の波長成分に原色以外の帯域が含まれ、それがノイズとなって、例えばピュアな青を表現することはとても難しかったのです。LEDでは非常に純度の高い原色が取り出せるので、透明感のある綺麗で純粋な青が表現できるようになりました。
鴻池 海の映像を観るとそのことが良く分かりますね。
小池 エメラルドグリーンが綺麗に映し出せるのは、3原色に黄色がプラスされたことと関連性があります。黄色成分を独立して表現可能となり、よりピュアに色を表現するための処理プロセスに余裕を持たせられるようになりました。結果的にシアン領域の色を広げることが可能となりました。
山之内 黄色を加えたことのメリットは、それ以外にも効用がありますね。光利用効率の改善、さらに省電力化にもつながっているようですね。
小池 はい。
山之内 シーンに応じた各色の光らせ方のバリエーションが豊富になり、ハンドリングに余裕が出てくるということなのでしょう。
小池 そうですね。複数の原色を組み合わせて色を作る方が良い場合もあれば、単原色で表現する方が有利な場合もある。最適解をシーンごとに解析してクオリティと省電力の兼ね合いをコントロールしているのです。
山之内 3つの色でハンドリングするよりも、4つの色で運用した方が最適解の選択肢が増えることになりますよね。
小池 その通りです。
山之内 追加する色としてシアンやマゼンタではなく黄色を選んだのにも、効率面を重視した結果なのでしょうか?
小池 そうですね。現在の放送規格やパッケージメディアに収められている色を忠実に再現するために、他の2色よりも効果が高く、省エネとディスプレイ性能が両立可能な色として黄色を選択したのです。
鴻池 なるほど。
3D映像の画質向上にも
クアトロン技術が寄与
鴻池 新製品に引き続き搭載されているTHXモードにも改めて注目したいですね。何もいじらない、非常に素直な画が今回のモデルで出せていると思います。
小池 マスターモニター的なモードとしての活用もお薦めできます。
山之内 映画モードも非常に充実していますね。「映画(クラシック)」を追加するなど意欲的な試みが感じられます。
小池 このモードでは、たとえば昔の名画を名画らしく、いわゆるグレインノイズを活かす方向で調整しています。家庭でパッケージを観る場合には、テレシネ行程が入る以上、フィルムらしさがある程度犠牲になってしまいます。映画館特有の投射輝度変化、フィルムそのものが持つ特有の「カクカク」感をきちんと再現できるように気を配っています。
山之内 昔の映画は、フィルム特有の不連続な動き、階調性や粒状ノイズの混在を意識した上で画作りを行っています。劇場でかつて私たちが観ていた映像を忠実に再現するという狙いがこのモードに込められているということでしょうね。
小池 その通りです。
鴻池 「LV」の3D映像クオリティにもクアトロンが貢献していることが良く分かります。なんといっても明るさが確保されることで映像に立体感が大いに出てきます。ここで言う立体感とは映像が前に飛び出すかどうかという意味ではなくて、例えば制作者が意図する映像の立体造詣がディスプレイ上で自然に表現できているという意味です。これはコントラストが十分確保されていることとも関連があるように思いますが。
小池 明るさとコントラストは立体感を高める上での重要なファクターです。2Dで観ていても、その両者を高いレベルで製品に盛り込めば、いわゆる立体感が大いに変わってきます。2Dで効果が高いものは、3Dでも当然良い影響を与えます。
山之内 全くその通りですね。ベースとなる2D映像の完成度を高めれば、高クオリティの3D映像を映し出すことができます。2Dの画をきちんとする、これがそもそもの基本ですし、その基本をきちんと押さえているシャープのアプローチは極めて正統的だと思います。
小池 ありがとうございます。
山之内 「クアトロン」技術は映画を観る楽しみを増やす可能性を多く備えているように私に感じられます。映像の作り手の意志やこだわりの部分が伝わりやすいディスプレイだと言えるでしょう。ディスプレイでこれだけハイレベルな表現ができるのであれば、制作者はそれを活かしたもっと質の高い作品を作りたいという意欲がかき立てられると思います。
鴻池 今以上に制約が取り払われた規格が登場すれば、制作者は当然そのことを歓迎するでしょう。RGBだけでなくYも使えれば、よりリアルに表現できるという希望を持ってクリエイティブな活動を行えるはずです。
小池 はい。
山之内 ブラウン管からフラットディスプレイにシフトチェンジさせた功績を持つシャープは、多原色の世界においてもスタンダードとなりうる基準を作り得る可能性を持っています。今後のさらなる技術向上を期待したいと思います。
−− 今日はどうもありがとうございました。