絶大な効果のハイレゾリューション・ミュージックエンハンサー
ヤマハ“AVENTAGE”第二世代 RX-A2020/1020を大橋伸太郎が速攻レビュー
ソースはNAS内のWAV音源。44.1k/16bitの音源がハイレゾ・オンで88.2k/24bitにアップサンプリングされる。空間の広がりが全く異なることと、ジャズの場合シンバルの余韻がきめ細かく、ドラムスの打撃は引き締まった輪郭と芯がくっきり浮かび上がる。クラシックの場合、透明感を増し倍音表現が大幅に進展する。
2機種共通の新機能となるダイアログリフトは、先述のようにセンターchの音声と映像中心が一致しない場合に便利な機能だが、レベルを上げていくとサラウンドチャンネルからのクロストークが気になり出すので、リフトアップの効果が認められる適切なポイントを見つけてそれに止めるのがいいだろう。
●サラウンド表現の先鋭度はRX-A2020と1010で差が認められる
A2020/A1010の基本的な音作りについて、ヤマハは「中低域の量感確保に加えヌケのいい高域を狙った」と説明する。そのためにはアナログ方式のアンプとして電源部の強化が大前提だ。
今回はヤマハ東京事務所のスタジオと音元出版の試聴室の両方で試聴を行ったのだが、まずヤマハスタジオでの試聴の際はフロントプレゼンススピーカーの実機を使用した。オーパスアルテのBD近作ヴェルディ『マクベス』第一幕の魔女のコーラスを再生すると、雷鳴が後方の高い位置で第一波が轟き、その後波のように試聴室の天井伝いに音場全体に広がっていく。その効果は圧巻で過去どのシステムでも再現出来なかった不気味さである。
そして、音元出版試聴室の5.1ch環境でもそれに近い効果が得られた。電源の足許がしっかりしていないとこのように高く広い表現は出来ない。
なお、ブロックケミコンの容量がA2020とA1020では異なっており、定格出力のワッテージも両機の差は大きいため、サラウンド表現の鮮鋭度はやはり2機種で差が認められる。
映画作品は、『ドラゴンタトゥーの女』の終盤のカーチェイスのシーンを視聴した。YPAO R.S.C.による補正が精度を増し、部屋の固有の癖が抑えられていることを実感する。スピーカーの設置位置による帯域とレスポンスの凹凸がないため、犯人を追跡するバイクのエンジン音の蛇行する軌跡が鮮明で美しいS字曲線を描いて音場に焼き付けられる。音と映像が完璧に一致して小気味よい。
●2機種ともしっかり引き継がれているヤマハの魅力 − アコースティックソースへの強み
一般にAVアンプ製品の中で、アナログ音声入力を搭載しない製品が中級機種でも出始めているが、今回のA2020/1020は共に7.1chマルチチャンネル入力を装備する。
SACDの田部京子『ブラームス後期ピアノ小品集』(4.0chマルチ)を再生したが、素晴らしかった。さすがに楽器メーカーであるヤマハの製品だけあってピアノ再生に手抜かりはなく、響きが柔らかく重厚で音色に艶と輝きがある。
アンジェラ・ヒューイット『ベートーヴェン・ピアノソナタ第三集』は5.0chマルチだが、ピアノの低域から高域まで楽音がフラットなバランスで、高さ・深さという空間の奥行きを伴って現れる。ピアノの等身大再生というと、えてしてグランドピアノを眼前に描き出すスケール感の表現になりがちだが、このように細部を描き込んでいって響きを再現するのも等身大再生であろう。
ヤマハのオーディオはアコースティックなソースに強い。データに頼るのでなく楽器固有の音色と表現性の理解が、ヤマハのオーディオ製品の中に聴感上の経験として生きている。磨きぬかれた音楽表現・豊かな音色数はフラグシップZ系の領分として、本機の魅力は録音・演奏における“直截で誇張のない音”の追求にある。今回の試聴を通して、本シリーズが「表現者(AVENTAGE)」という自己のポジションを第二世代で確立したことを実感した。
<大橋伸太郎 プロフィール>
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数。2006年に評論家に転身。