[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第12回】絶対領域的・真空管アンプのススメ − 伊Carot One「FABRIZIOLO」を聴く
■ギターが特に好感触! はっきり言って、かなりいい!
では試聴を開始しよう。試聴環境はMacBook Air+Audirvana Plus→iBasso Audio D5 HjをUSB-DACとして使用→Carot One Fabriziolo→ヘッドホンはShure SRH1840だ。
まずはEsperanza Spalding『Radio Music Society』から。いきなりよい! 試聴曲の冒頭はエレクトリックギターのカッティングから始まるのだが、僕としてはパキッと抜ける硬質な艶で描き出してほしいと思っていて、その要望にまさに応えてくれる音色だ。これぞエレクトリックギターの良質なクリーントーンである。
続いて入ってくるシンバルで素晴らしいのは、金属質のざらつきの再現。使い込んだシンバルの表面の質感を思い起こさせる「適度な粗さ」がある。またシンバルは音色の芯もビシッと通っていて、リズムが明確だ。
高音側ではビブラフォンの揺らめきの柔らかさも嬉しい。試聴曲の暖かな雰囲気を形作る重要な要素だが、その勘所をしっかりと押さえている。音色の艶は低音でも共通だ。特にベースの音色は艶やかで濃密。それでいて癖は強くない。自然だ。ドラムスは何と言うか、好ましいビンテージ感がある。温かみのある太さと抜けだ。
ギターが特に好感触だったので、LUNA SEA『EDEN』でそこをさらに確認してみた。やはりよい! 深く歪ませた音色でのリフの鋭いエッジ感が強烈。気持ちよいザクザクっぷりだ。ギターの音色の倍音領域にシンバルと同じく適度な粗さがあり、“ザク”とか“ガリ”とか“ギャリン”とか、そういった成分がいい感じに暴れる。音色の立体感も際立つ。一方でクリーントーンによるアルペジオの透明感とキラキラっぷりもまたよし。この時期のINORAN氏が奏でるギターの音色の魅力を堪能できる。
ボーカルの確認は宇多田ヒカル『HEART STATION』で。歌いっぷりがよいのは、ダイナミクスに優れているからだろう。歌の抑揚が幅広く活かされている。声の掠れ、ささくれも、嫌なざらつきにはせず、物足りない丸め方もせず、彼女の声の大きな魅力として生かしている。ボーカルの感触も実に良い。
全体の印象としては「クリア」だ。しかもクールなクリアさではなく、真空管自体のモノとしての感触に近い、ガラスのような温かみもある、艶やかな透明感。また解像感も高く、懐古的な好音質にとどまらない、現代に通用する高音質だ。これははっきり言って、かなりいい!
普通に音が良い上に趣味性も高く、これぞオーディオ、これもオーディオといった感じ。一言で言うと「楽しい!」ヘッドホンアンプだ。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。 |
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