スペシャルインタビュー
REGZA「Z7」シリーズ開発陣に聞く画質・音質進化への取り組み
東芝の薄型テレビREGZAの「Z」シリーズは、伝統的に東芝の薄型テレビの高画質モデルに付けられるシリーズネームであり、ラインナップの中核を成すトップシリーズだ。2012年秋冬モデルとして登場する「Z7」シリーズは、「タイムシフトマシン」の搭載、および新クラウドサービス「TimeOn」への対応などにより“多機能モデル”として注目を集めているが、一方で「Z7」シリーズはまぎれもなく、REGZAのフルHD対応のラインナップにおける「最高画質」モデルなのである。
今回はREGZAシリーズの画質設計を担当する、東芝デジタルメディアエンジニアリング(株)デジタルメディアグループ 映像システム技術担当 TV映像マイスタ アシスタントシニアマネージャーの住吉肇氏、(株)東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 設計開発センター デジタルプロダクツ&サービス設計第四部 第三担当 参事の永井賢一氏、音質設計担当の東芝デジタルメディアエンジニアリング(株)デジタルメディアグループ デジタル機器開発技術担当 デジタル機器開発第二チーム シニアエンジニア 荒船晃氏、ならびに商品企画を担当する(株)東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 第一事業部 国内企画・マーケティング部の本村裕史氏にインタビューを試み、REGZA「Z7」シリーズの高画質・高音質化への取り組みと、ポイントとなる技術についてお話をうかがった。
■引き締まった黒色を再現する「アドバンスド・クリアパネル」採用
まず、AVファンにとって注目すべきは、Z7シリーズが搭載する液晶パネルが偏光3D対応のIPSパネル「アドバンスド・クリアパネル」になったことだ。過去の偏光3D対応の機種は2D視聴時に偏光フィルムの存在が気になることがあった。今回実際に視聴した画質については、視聴中に偏光フィルムによる画質への影響が気になるほどではなかった。
4KマスターのBD映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を視聴すると、2Kテレビのトップエンドにふさわしく、フルHD以上にソースに込められた情報を引き出してくる。「高S/Nなコンテンツに対しては、BDプレーヤー側の性能が高ければ“モニター”モードでの視聴を推奨しています。“REGZAサーバー”との組み合わせでは基本的に“オート”で良いのですが、他社製品と組み合わせる際は特に明示的にモニターモードに設定していただけると、よりリアルな映像を楽しめます」(住吉氏)
「1080p画質モード」の設定で「モニター」を選択すると、三次元ノイズリダクションはOFFとなり、映像信号は12bitの4:4:4の状態で、再構成型超解像をはじめとした高画質回路が有効になる。
3D映像については『タイタニック3D』を視聴してみた。REGZAとの組み合わせに最適な偏光3Dタイプの「レグザシアターグラス」は、本体が軽量でかけ心地も良いことから、快適な視聴感が得られる。偏光3Dによる情報量の低下は気になるほどではなく、むしろよりストレスなく3D映像に没入できるという意味でも、偏光3D方式を採用したZ7シリーズは3D対応テレビとして楽しみやすくなった。
なお、「アドバンスド・クリアパネル」には、Z7から新たに「クリア偏光層」が搭載された。これは偏光3Dフィルムよりもさらに内面に配置された、外光の映り込みを避けるための偏光層で、クリアパネルのように光沢感のある画質を残したまま、明るい照明下での映り込みを抑えるためのものだ。「今までのZシリーズではフルグレアのパネルを採用してきましたが、今回はその光沢感を減らして、一方で映り込みの低減に重点を置きました」(本村氏)と説明する通り、実際には視聴する室内の照明を灯けた際にもパネルへの映り込みが気にならず、部屋をある程度明るくした状態でも映像の世界に没頭できる。視聴環境を問わずに、高画質な映像が楽しめる点も魅力だ。
■基本画質を大きく向上、コンテンツごとの画質最適化も図った
Z7シリーズに搭載されている映像回路は、昨年に引き続き「レグザエンジンCEVO DUO」だが、本機ではファームを進化させて基本画質の向上を図った。
最大の特徴はデジタル映像信号の、色信号のクロマをアップサンプリングする際にキレのある色味を再現する「色超解像」技術を搭載し、オール4:4:4での信号処理を三次元ノイズリダクションと“両立”させたことだ。「三次元ノイズリダクションをカットしないと4:4:4処理ができないのが一般的ですが、当社のZ7では制約なく信号を4:4:4のまま処理できる点が特長です」(永井氏)
新たに搭載した「三次元カラーノイズリダクション」は、例えばライブBDでブルーのライトがグラデーションのある映像を作りだしているようなシーンで発生しがちなカラーノイズを抑制する際に効果を発揮、カラーS/Nも向上させる。他にも、オンエア放送の舞台劇で暗部の多いシーンなどでも画質向上が見られる。「従来はY(輝度)ノイズにフォーカスしていたものが、今回はカラーノイズにフォーカスしたことで、映像全体の高画質化が可能になりました」と同社の永井氏は説明する。
また「BDレコーダーに録画したオンエア放送番組については、HDMI経由ではレコーダー側で4:4:4変換されて出力されます。ですので、BDレコーダーに録画した番組をDLNA経由で送り出して再生した方が、REGZAの色超解像による4:2:0→4:4:4変換の効果を働かせることができ、より高画質に楽しめます」(永井氏)という。
もう一つはシーン適応型高画質処理の「色質感リアライザー」「色階調リアライザー」「グラフィックスNR」の3つの新技術を搭載したことだ。適応型のため、効果が発揮される映像シーンが異なるが、「色階調リアライザー」は単純な色数で作られているアニメ、グラフィックに対して、色の違いをより明確に出すことが可能になる。一方の「グラフィックスNR」では平坦部のノイズを効果的に抑えることができる。これらの効果は、後ほど紹介する「アニメモード」などで真価を発揮する。
「パンニング検出対応3次元NR」はカメラの上下左右の動きを検出し、パターン抽出型3次元NR/非巡回型3次元YNR/非巡回型3次元CNR/ベースバンドCombを一時的にOFFにして動画ボケを軽減する技術だ。これは実写はもちろん、パンニング効果が多用されるアニメでも有効に働くものだ。
このほか自動画質調整機能「おまかせドンピシャ高画質」も進化しており、テレビを設置した部屋の“壁/カーテンの色”が設定できるようになった。
■アニメモードは3通りの“コンテンツモード”を用意
映像の調整機能については従来からの「映像メニュー」に加え、視聴するコンテンツに最適な画質を設定できる「コンテンツモード」が用意されている。アニメコンテンツの視聴時には「デジタルアニメ(放送)」「デジタルアニメ(BD)」「レトロアニメ」の3つが利用できる。
筆者が注目したモードは「レトロアニメ」だ。これは元々は『風の谷のナウシカ』のような、セル画で描かれた古いアニメをより高画質に表示するために設けられたモードだ。本モードの視聴にあたっては、TOKYO MXで放送中のアニメ『タイガーマスク』(1969年〜)をエアチェックした映像でテストしたところ、画面内に発生しがちなコーミング(クシ型のガタ付くノイズ)を除去し、よりクリアに表現した。サイドパネルのある4:3画像の場合に垂直系のフィルターが入り、レトロアニメをより高画質にするのだ。
「デジタルアニメ(BD)」については「『借りぐらしのアリエッティ』のように、「CGにより緻密に背景画像を描き込んだアニメーション映像の視聴に最適化しています」(住吉氏)というものだ。HDMIなど外部ソース機器と接続した際に、後述の「デジタルアニメ(放送)」と選んで使い分けられる。特徴は微小な領域までテクスチャーを上げることで、細部に渡る描き込みをより強調してみせる方向でチューニングされているという。
「デジタルアニメ(放送)」については、オンエアのアニメ映像を高画質に楽しむためのモードだ。こちらのモードの画質調整を行うために、開発陣は様々な昨今のアニメ番組を逃さずエアチェックして視聴を繰り返してきたという。特に動きの速いシーンでノイズの出方などをチェックしながら画質の最適化を図ってきたと住吉氏は語る。
今回「デジタルアニメ(放送)」の視聴は、筆者がBDに録画したアニメ『ガールズ&パンツァー』『魔法少女まどかマギカ』をリファレンスに使用した。いわゆるベタ塗りの映像箇所では、輪郭線の周囲に発生するノイズがとても効果的に抑えられている。平坦部のモスキートノイズを増殖させることなく、またシュートを付加させずに輪郭だけをくっきりとさせる水平垂直輪郭補正の技術がここに活かされている。
■グリーンの芝目を再現しる「ゴルフモード」
REGZA G5に搭載された「ゴルフモード」も、Z7に搭載されている。
「ゴルフというのは面白いコンテンツで、屋外コンテンツであるということと、スポーツ全般で言えることなのですが、照度環境がコントロールできないのでオンエアで見てるとオーバーホワイトの信号が非常に多いんですよね。100%以上の輝度の信号では白飛び、色飽和しやすいので、そこまでリニアリティを確保したい、というのがまず一点。まあとは、芝の質感のが非常に重要になってきます。」(住吉氏)
実際にゴルフ番組という放送特性に合わせてチューニングされている。REGZA Z7では輝度と、複数の色ヒストグラムを取っており、なかでも緑色の輝度のヒストグラムを別にとっていることが特徴。ゴルフモードでは色質感リアライザーというモードがオンになり、緑の輝度領域を見つけ出して、面積がヒストグラム上大きい部分の、輝度領域の微分利得ゲインを上げる。質感リアライザーの傾斜が大きくなっているところがあり、そこが芝目の輝度の領域になっているため、その振幅差を拡大することによって、よりリアルな起伏がよく見えるようになるというものだ。
超解像でも一般的なコンテンツには平坦部を見つけた時には処理をかけないような処理を外し、ゴルフモードでは芝にも超解像が働かせる。これは芝目の細かいテクスチャーがゴルフでは有効になるためだ。また、動きに対応するためノイズリダクションの処理は基本的に切っている。
筆者はゴルフは嗜まないため、サッカー日本代表の試合をエアチェックした番組を持ち込んでテストしたところ、確かにスタジアムの芝目をより鮮明に描き分ける効果がよく分かる。「ゴルフモード」による効果は画面全体の奥行き感をしっかり出す効果も持っており、グリーンの上で行われる競技であれば有効に働くようだ。
■ゲームの種類に応じた3つのコンテンツモードを用意
REGZAが幅広いユーザーから支持を集める一因となっている「ゲームモード」については、従来「ZP3」シリーズに搭載されていた、補間フレーム処理を行いつつ低遅延を実現した「ゲームスムーズ」がZ7シリーズにも搭載された。
映像メニューが「ゲーム」の時には「ノーマル」「モニター」「レトロ」の3つの「コンテンツモード」が選べる。「ノーマル」はPS3などの一般的なゲームに最適化したモードで、視認性を重視したクッキリした画質が特徴。「モニター」モードは、PC用ディスプレイに近い、高精細な画質が特徴。これは昨今高解像グラフィクスが楽しめるよう制作されているゲームが増えてきたことや、超解像エンジン搭載のPCモニターが増えてきたことに対応したもので、REGZAの超解像技術でハイクオリティ画質を実現する。「レトロ」はスーパーファミコンのゲームのように色数が少ないSD画質のゲーム用で、Wiiなどアナログ入力対応のゲームを楽しむ際にリンギングを抑える機能も含まれている。
■薄型テレビの音質を飛躍的に向上させる「レグザサウンドイコライザー」
「Z7」シリーズには、高音質化の新技術として「レグザサウンドイコライザー」が搭載された。これは東芝が自社開発を進め、「Z7」シリーズで初めて搭載を実現した、テレビの内蔵スピーカーの音響特性を飛躍的に向上させる技術だ。
本技術ではFIR(Finite Impulse Response)フィルターにて高精度に周波数と時間軸を補正。理想的なインパルス波形の再現を図る。またテレビの筐体自体の“鳴き”による不快音もあらかじめ解析し、共鳴周波数成分をピンポイントで抑制して排除する。
音質解析はスピーカー前面の空間を立体的に測定。画面の高さ方向に合わせ、スキャニング方法により左右平面を複数点計測し、それを立体的に4面分集音する3次元測定技術を採用。こうして集音した膨大なデータを、512タップのFIRフィルターで補正するが、448バンドを周波数特性(振幅補正)に使い、残りで位相補正を行う。こうして集音したデータを周波数&時間軸で解析して、ユーザーの聴覚に最も心地良いサウンドを再現する。
テレビ画面の前の立体空間で鳴る実際の音を測定してDSPの処理に反映させ、スピーカーの位置を特定する伝達関数をキャンセルできるため、筐体に内蔵する35×75ミリのフルレンジスピーカーとバスレスBOXというスピーカーを、画面下向きに配置したインビジブル−スピーカーのレイアウトながら、実際の聴感上は画面の真ん中からサウンドが聴こえるような感覚が得られる。実際にBDタイトルの音声を視聴しても、画面全体のセンターに音が定位し、実際のスピーカーの位置とは全く異なる場所から、クリアでキレがあり、かつ自然な低音感のあるサウンドが再生されることに驚かされる。テレビの正面から左右45度までの広いリスニングエリアもカバーされている。
東芝REGZA最新「Z7」シリーズに搭載された高画質化・高音質化機能を一通りチェックしてきた。「タイムシフトマシン」をはじめとした先進的な録画機能に注目が集まりがちなフラグシップモデルだが、画質、音質の面でも実に見どころの多いテレビであることがわかった。薄型テレビのクオリティアップを検討されている方々は、改めて本機の総合力に注目してみてほしい。
今回はREGZAシリーズの画質設計を担当する、東芝デジタルメディアエンジニアリング(株)デジタルメディアグループ 映像システム技術担当 TV映像マイスタ アシスタントシニアマネージャーの住吉肇氏、(株)東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 設計開発センター デジタルプロダクツ&サービス設計第四部 第三担当 参事の永井賢一氏、音質設計担当の東芝デジタルメディアエンジニアリング(株)デジタルメディアグループ デジタル機器開発技術担当 デジタル機器開発第二チーム シニアエンジニア 荒船晃氏、ならびに商品企画を担当する(株)東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 第一事業部 国内企画・マーケティング部の本村裕史氏にインタビューを試み、REGZA「Z7」シリーズの高画質・高音質化への取り組みと、ポイントとなる技術についてお話をうかがった。
■引き締まった黒色を再現する「アドバンスド・クリアパネル」採用
まず、AVファンにとって注目すべきは、Z7シリーズが搭載する液晶パネルが偏光3D対応のIPSパネル「アドバンスド・クリアパネル」になったことだ。過去の偏光3D対応の機種は2D視聴時に偏光フィルムの存在が気になることがあった。今回実際に視聴した画質については、視聴中に偏光フィルムによる画質への影響が気になるほどではなかった。
4KマスターのBD映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を視聴すると、2Kテレビのトップエンドにふさわしく、フルHD以上にソースに込められた情報を引き出してくる。「高S/Nなコンテンツに対しては、BDプレーヤー側の性能が高ければ“モニター”モードでの視聴を推奨しています。“REGZAサーバー”との組み合わせでは基本的に“オート”で良いのですが、他社製品と組み合わせる際は特に明示的にモニターモードに設定していただけると、よりリアルな映像を楽しめます」(住吉氏)
「1080p画質モード」の設定で「モニター」を選択すると、三次元ノイズリダクションはOFFとなり、映像信号は12bitの4:4:4の状態で、再構成型超解像をはじめとした高画質回路が有効になる。
3D映像については『タイタニック3D』を視聴してみた。REGZAとの組み合わせに最適な偏光3Dタイプの「レグザシアターグラス」は、本体が軽量でかけ心地も良いことから、快適な視聴感が得られる。偏光3Dによる情報量の低下は気になるほどではなく、むしろよりストレスなく3D映像に没入できるという意味でも、偏光3D方式を採用したZ7シリーズは3D対応テレビとして楽しみやすくなった。
なお、「アドバンスド・クリアパネル」には、Z7から新たに「クリア偏光層」が搭載された。これは偏光3Dフィルムよりもさらに内面に配置された、外光の映り込みを避けるための偏光層で、クリアパネルのように光沢感のある画質を残したまま、明るい照明下での映り込みを抑えるためのものだ。「今までのZシリーズではフルグレアのパネルを採用してきましたが、今回はその光沢感を減らして、一方で映り込みの低減に重点を置きました」(本村氏)と説明する通り、実際には視聴する室内の照明を灯けた際にもパネルへの映り込みが気にならず、部屋をある程度明るくした状態でも映像の世界に没頭できる。視聴環境を問わずに、高画質な映像が楽しめる点も魅力だ。
■基本画質を大きく向上、コンテンツごとの画質最適化も図った
Z7シリーズに搭載されている映像回路は、昨年に引き続き「レグザエンジンCEVO DUO」だが、本機ではファームを進化させて基本画質の向上を図った。
最大の特徴はデジタル映像信号の、色信号のクロマをアップサンプリングする際にキレのある色味を再現する「色超解像」技術を搭載し、オール4:4:4での信号処理を三次元ノイズリダクションと“両立”させたことだ。「三次元ノイズリダクションをカットしないと4:4:4処理ができないのが一般的ですが、当社のZ7では制約なく信号を4:4:4のまま処理できる点が特長です」(永井氏)
新たに搭載した「三次元カラーノイズリダクション」は、例えばライブBDでブルーのライトがグラデーションのある映像を作りだしているようなシーンで発生しがちなカラーノイズを抑制する際に効果を発揮、カラーS/Nも向上させる。他にも、オンエア放送の舞台劇で暗部の多いシーンなどでも画質向上が見られる。「従来はY(輝度)ノイズにフォーカスしていたものが、今回はカラーノイズにフォーカスしたことで、映像全体の高画質化が可能になりました」と同社の永井氏は説明する。
また「BDレコーダーに録画したオンエア放送番組については、HDMI経由ではレコーダー側で4:4:4変換されて出力されます。ですので、BDレコーダーに録画した番組をDLNA経由で送り出して再生した方が、REGZAの色超解像による4:2:0→4:4:4変換の効果を働かせることができ、より高画質に楽しめます」(永井氏)という。
もう一つはシーン適応型高画質処理の「色質感リアライザー」「色階調リアライザー」「グラフィックスNR」の3つの新技術を搭載したことだ。適応型のため、効果が発揮される映像シーンが異なるが、「色階調リアライザー」は単純な色数で作られているアニメ、グラフィックに対して、色の違いをより明確に出すことが可能になる。一方の「グラフィックスNR」では平坦部のノイズを効果的に抑えることができる。これらの効果は、後ほど紹介する「アニメモード」などで真価を発揮する。
「パンニング検出対応3次元NR」はカメラの上下左右の動きを検出し、パターン抽出型3次元NR/非巡回型3次元YNR/非巡回型3次元CNR/ベースバンドCombを一時的にOFFにして動画ボケを軽減する技術だ。これは実写はもちろん、パンニング効果が多用されるアニメでも有効に働くものだ。
このほか自動画質調整機能「おまかせドンピシャ高画質」も進化しており、テレビを設置した部屋の“壁/カーテンの色”が設定できるようになった。
■アニメモードは3通りの“コンテンツモード”を用意
映像の調整機能については従来からの「映像メニュー」に加え、視聴するコンテンツに最適な画質を設定できる「コンテンツモード」が用意されている。アニメコンテンツの視聴時には「デジタルアニメ(放送)」「デジタルアニメ(BD)」「レトロアニメ」の3つが利用できる。
筆者が注目したモードは「レトロアニメ」だ。これは元々は『風の谷のナウシカ』のような、セル画で描かれた古いアニメをより高画質に表示するために設けられたモードだ。本モードの視聴にあたっては、TOKYO MXで放送中のアニメ『タイガーマスク』(1969年〜)をエアチェックした映像でテストしたところ、画面内に発生しがちなコーミング(クシ型のガタ付くノイズ)を除去し、よりクリアに表現した。サイドパネルのある4:3画像の場合に垂直系のフィルターが入り、レトロアニメをより高画質にするのだ。
「デジタルアニメ(BD)」については「『借りぐらしのアリエッティ』のように、「CGにより緻密に背景画像を描き込んだアニメーション映像の視聴に最適化しています」(住吉氏)というものだ。HDMIなど外部ソース機器と接続した際に、後述の「デジタルアニメ(放送)」と選んで使い分けられる。特徴は微小な領域までテクスチャーを上げることで、細部に渡る描き込みをより強調してみせる方向でチューニングされているという。
「デジタルアニメ(放送)」については、オンエアのアニメ映像を高画質に楽しむためのモードだ。こちらのモードの画質調整を行うために、開発陣は様々な昨今のアニメ番組を逃さずエアチェックして視聴を繰り返してきたという。特に動きの速いシーンでノイズの出方などをチェックしながら画質の最適化を図ってきたと住吉氏は語る。
今回「デジタルアニメ(放送)」の視聴は、筆者がBDに録画したアニメ『ガールズ&パンツァー』『魔法少女まどかマギカ』をリファレンスに使用した。いわゆるベタ塗りの映像箇所では、輪郭線の周囲に発生するノイズがとても効果的に抑えられている。平坦部のモスキートノイズを増殖させることなく、またシュートを付加させずに輪郭だけをくっきりとさせる水平垂直輪郭補正の技術がここに活かされている。
■グリーンの芝目を再現しる「ゴルフモード」
REGZA G5に搭載された「ゴルフモード」も、Z7に搭載されている。
「ゴルフというのは面白いコンテンツで、屋外コンテンツであるということと、スポーツ全般で言えることなのですが、照度環境がコントロールできないのでオンエアで見てるとオーバーホワイトの信号が非常に多いんですよね。100%以上の輝度の信号では白飛び、色飽和しやすいので、そこまでリニアリティを確保したい、というのがまず一点。まあとは、芝の質感のが非常に重要になってきます。」(住吉氏)
実際にゴルフ番組という放送特性に合わせてチューニングされている。REGZA Z7では輝度と、複数の色ヒストグラムを取っており、なかでも緑色の輝度のヒストグラムを別にとっていることが特徴。ゴルフモードでは色質感リアライザーというモードがオンになり、緑の輝度領域を見つけ出して、面積がヒストグラム上大きい部分の、輝度領域の微分利得ゲインを上げる。質感リアライザーの傾斜が大きくなっているところがあり、そこが芝目の輝度の領域になっているため、その振幅差を拡大することによって、よりリアルな起伏がよく見えるようになるというものだ。
超解像でも一般的なコンテンツには平坦部を見つけた時には処理をかけないような処理を外し、ゴルフモードでは芝にも超解像が働かせる。これは芝目の細かいテクスチャーがゴルフでは有効になるためだ。また、動きに対応するためノイズリダクションの処理は基本的に切っている。
筆者はゴルフは嗜まないため、サッカー日本代表の試合をエアチェックした番組を持ち込んでテストしたところ、確かにスタジアムの芝目をより鮮明に描き分ける効果がよく分かる。「ゴルフモード」による効果は画面全体の奥行き感をしっかり出す効果も持っており、グリーンの上で行われる競技であれば有効に働くようだ。
■ゲームの種類に応じた3つのコンテンツモードを用意
REGZAが幅広いユーザーから支持を集める一因となっている「ゲームモード」については、従来「ZP3」シリーズに搭載されていた、補間フレーム処理を行いつつ低遅延を実現した「ゲームスムーズ」がZ7シリーズにも搭載された。
映像メニューが「ゲーム」の時には「ノーマル」「モニター」「レトロ」の3つの「コンテンツモード」が選べる。「ノーマル」はPS3などの一般的なゲームに最適化したモードで、視認性を重視したクッキリした画質が特徴。「モニター」モードは、PC用ディスプレイに近い、高精細な画質が特徴。これは昨今高解像グラフィクスが楽しめるよう制作されているゲームが増えてきたことや、超解像エンジン搭載のPCモニターが増えてきたことに対応したもので、REGZAの超解像技術でハイクオリティ画質を実現する。「レトロ」はスーパーファミコンのゲームのように色数が少ないSD画質のゲーム用で、Wiiなどアナログ入力対応のゲームを楽しむ際にリンギングを抑える機能も含まれている。
■薄型テレビの音質を飛躍的に向上させる「レグザサウンドイコライザー」
「Z7」シリーズには、高音質化の新技術として「レグザサウンドイコライザー」が搭載された。これは東芝が自社開発を進め、「Z7」シリーズで初めて搭載を実現した、テレビの内蔵スピーカーの音響特性を飛躍的に向上させる技術だ。
本技術ではFIR(Finite Impulse Response)フィルターにて高精度に周波数と時間軸を補正。理想的なインパルス波形の再現を図る。またテレビの筐体自体の“鳴き”による不快音もあらかじめ解析し、共鳴周波数成分をピンポイントで抑制して排除する。
音質解析はスピーカー前面の空間を立体的に測定。画面の高さ方向に合わせ、スキャニング方法により左右平面を複数点計測し、それを立体的に4面分集音する3次元測定技術を採用。こうして集音した膨大なデータを、512タップのFIRフィルターで補正するが、448バンドを周波数特性(振幅補正)に使い、残りで位相補正を行う。こうして集音したデータを周波数&時間軸で解析して、ユーザーの聴覚に最も心地良いサウンドを再現する。
テレビ画面の前の立体空間で鳴る実際の音を測定してDSPの処理に反映させ、スピーカーの位置を特定する伝達関数をキャンセルできるため、筐体に内蔵する35×75ミリのフルレンジスピーカーとバスレスBOXというスピーカーを、画面下向きに配置したインビジブル−スピーカーのレイアウトながら、実際の聴感上は画面の真ん中からサウンドが聴こえるような感覚が得られる。実際にBDタイトルの音声を視聴しても、画面全体のセンターに音が定位し、実際のスピーカーの位置とは全く異なる場所から、クリアでキレがあり、かつ自然な低音感のあるサウンドが再生されることに驚かされる。テレビの正面から左右45度までの広いリスニングエリアもカバーされている。
東芝REGZA最新「Z7」シリーズに搭載された高画質化・高音質化機能を一通りチェックしてきた。「タイムシフトマシン」をはじめとした先進的な録画機能に注目が集まりがちなフラグシップモデルだが、画質、音質の面でも実に見どころの多いテレビであることがわかった。薄型テレビのクオリティアップを検討されている方々は、改めて本機の総合力に注目してみてほしい。