[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第28回】高音質&小型の“理想ハイレゾDAP”!? Astell&Kern「AK100」徹底チェック
■お待ちかねの音質チェック! タイトな低音とスムーズな高音が持ち味
まずはハイエンドイヤホン代表、SHURE「SE535」で聴いてみる。
最初に印象をまとめておくと、膨らませないタイトな低音と耳を突かないスムーズな高音が持ち味。その音色に演出というか飾り気はなく、落ち着いたフラット志向と感じられる。そして全体にすっきり系の音調であり音場だ。 クリアさが光って解像感も高い。
上原ひろみさんのピアノ・トリオ作品「MOVE」からはアグレッシブな表題曲。ピアノとシンバルは音色の強さ、きつさを控えめにして、前述の通り滑らかな音色。そのためライドシンバルの抜けは少し弱まるが、ハイハットシンバルのしなやかさはより生かされて、グルーブ全体も柔軟性を増す。ドラムスはタムなどの太鼓もしなやかでスパンと抜けも良く、リズムの明確さに貢献している。
エレクトリックベースは、量感や肉感は稼いでいないが、音像や音程のくっきり感に優れる。こちらもリズムの良さに貢献しているポイントだ。場面によっては音色の芯をほどよく抜いたようなエアー感も出してきて、演奏の表情も豊か。そして特に中低域のひとつひとつの音がタイトであるために、音場に余白が残されて空間性や解像感にも優れる。音の響きが豊富で、配置も明瞭。
ロック系のバンド・サウンドである相対性理論「シンクロニシティーン」からの試聴曲「ミス・パラレルワールド」は強めにミックスされたハイハットが目立つ曲だが、こちらでもその音色はいい感じに和らげられていてしなやか。これはやはり本機とSE535を組み合わせた際の特色と言ってよいだろう。
ベースは重量感はほどほど程度だが密度感のある音色で、充実している。スタッカートの決まり方も素直だ。倍音感が特徴的なボーカルは、その倍音感をあまりシャープには出さずに、優しくふわっと広げて柔らかな印象。
ボーカルはさらに宇多田ヒカルさんの「HEART STATION」で仕上げのチェックだが、やはりソフトな印象だ。輪郭のぼかし方が良い具合で、声の暖かみをより生かしている。それでいてクリアさや抜けは落ちていないのもポイントだ。かなり好感触。
■本機用にチューニングされたイヤホン「AK100-111iS」で聴いてみる
さて実はAK100には、AK-100用にチューニングされたイヤホン「AK100-111iS」も用意されている。「FitEar」ブランドのカスタムイヤーモニター(耳型を作成して各ユーザー専用に制作されるイヤホン)で知られる須山歯研の監修を受けているモデルで、こちらも気になるアイテムだ。直販価格は4万9,800円。参考までにSE535は実売3万8,000円程度だ。
シンプルなBA型シングル構成であるが、シルバーコーテッドのケーブルやメッシュ状の音響抵抗による調整で、AK100に「タイトな低域/スムーズに伸びる高域を付加することを目指しました」とのこと。個人的にはそのあたりはSE535との組み合わせでもすでに十分と感じていたのだが、さてどうなるのか?
こちらもまずまとめておくと、SE535より重心は上がるが、低音の明確さや抜けは負けず劣らず。高音はシャープネスを高めつつ耳障りではない絶妙のキレっぷり。確かにSE535との組み合わせとは傾向が異なり、これもこれであり!と思わされる。
上原ひろみさん「MOVE」では、何はともあれシンバルの薄刃さと鈴鳴り感が素晴らしい。特にライドシンバルがシュインッ!と鋭く強く輝いて美しい。ハイハットシンバルもしなやかさはそのままに薄刃。またハイハットは一定のリズムを刻んでいる場面での一打ごとのダイナミクスが豊かに再現されており、リズムの躍動感を高めてくれる。
ベースや太鼓は、SE535と変わらずにスパンというキレと抜けがある。そして低音の量感は薄めだが、しばらく聴き込んでみると。帯域的には低い方まですっと伸びている。さらりと深い表現だ。
宇多田ヒカルさんのボーカルは…よい!声にほどよいざらつきや掠れの質感描写が迫真。声に余計な肉付きがないことも、硬質で精緻なタッチを強めている。またコーラスの重なり方も美しく立体的。相対性理論の曲でも全体の立体感は際立っていた。そこはこの組み合わせの強みと言えるだろう。
なお実は付属のイヤーピースがどれも僕の耳にはいまひとつフィットせず、そのことで性能がフルには発揮されていない感があった。特に低音の量感はスポイルされている恐れがあるので、そこは気に留めておいてほしい。
さてAK100。凝縮感と精密感のある造りも魅力的だし、音の方も癖のない良音質だ。フラットでクリアな音を好む方や味付けはイヤホンに任せるという方には特におすすめ。現在ポータブルプレーヤーとポータブルアンプの二段重ね体勢の方も、試してみたら「これでいいかも…」となるかもしれない。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Mac、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。 |
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