[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第42回】ポータブルなのに重量級!光城精工の真鍮ポタアン「KM01-BRASS」を聴く
■まずは内部仕様をチェック! 手抜かりのない回路構成
電源部は、通常は1個で済む電解コンデンサーをデュアルドライブ構成にしている。本機の電源は単4乾電池1本で電圧が低く、通常であれば中低音の駆動力に弱みが生じる。コンデンサーをデュアルドライブにすることで、それを補っているとのことだ。
なお、電池駆動時間は約14時間。特に長いわけではないが十分ではあるし、単4電池1本なら予備を持ち歩いても邪魔にならない。
アンプは前段に低電圧駆動オペアンプ、後段にダイアモンドバッファ回路という二段構成を採用。これはそれほど特殊な回路構成ではないものの、特に後段のダイアモンドバッファ回路は正確に動作させるためには綿密なチューニング(抵抗の配置や値の調整など)が必要とされる。しかしそこを満たしている本機においては、両段の長所を共に生かして、クリアで臨場感のある音像を実現しているとのこと。
■お待ちかねの音質チェック!
では、いよいよその重量級の筐体と手抜かりのない回路が生み出す音をお伝えしていこう。お借りしたKM01-TSUGARUの方は、前述のように試作版で製品版とは筐体材質が異なるので、KM01-BRASSを中心に試聴した。試聴環境は、iPhone 5→KM01-BRASS→SHURE「SE535」。
最初に印象をざっとまとめると、音場の背景の静かさ(ノイズ感の少なさ)によってひとつひとつの音色やその響きがより生かされることと、その音色の中に硬質さと柔らかさが兼ね備えられているところが、このポータブルアンプの持ち味と感じた。
上原ひろみさんのピアノ・トリオのアグレッシブな演奏を楽しめる「MOVE」の冒頭のピアノは、心地よくキンと来る硬質さ。それでいて音色の角のほどよい丸みも生かされ、艶がある。そして前述のように背景がとても静かなので、そこに鳴らされるピアノの輝きが実に美しい。曲の始まりの緊張感と美しさが共によく表現されている。
同じく冒頭のライド・シンバルは研ぎ澄まされて薄刃。この音源のこの場面では理想的な描写だ。リズムを細かく刻むハイハット・シンバルはピシッと芯が通っていつつ、音色の周りにふわっと広がる柔らかな響きも感じられる。これもこの場面には適当な感触で、精密でありながらカチッとはしすぎないで、しなやかなグルーヴを生み出している。クラッシュ・シンバルの強打はバシャーンの「バ」の濁点をあまり強くせずに、透明感のある音色だ。ロック的な荒さは少し弱まるが、これはこれで魅力的である。
ドラムスの太鼓類はアンプの力でしっかりと制動され引き締められているが、ガチガチにタイトではなくて、柔軟性もある太さや豊かな空気感も生かされている。空気感の豊かさについては、無駄な響きや膨らみが抑えられているおかげで本来の響きの成分が見えやすくなっていることが、それを生み出しているのだと思う。太鼓はアタックに鈍りや強調がなくて実に素直なところもポイント。
エレクトリック・ベースはがっしりと密度感のある音色で、アタックや音程感も明確。このあたりの感触はまさに重量級金属筐体の手応えから想像できるそれだ。細かなフレーズでの粒立ちもよく、これもグルーヴの正確な再現に一役買っている。
全天候型ポップ・ユニット、相対性理論の「ミス・パラレルワールド」でも、シンバルの透明感は感じられる。この曲のハイハット・シンバルはザクザクと荒い迫力の音色で全体を引っ張る。しかしこのアンプで聴くとその荒さは少し控えられて、やや落ち着いた音色になる印象だ。だがハイハットの開閉のスチャッというキレの良さは文句なし。
倍音感が非常に豊かな女性ボーカルは、その倍音のシャープさ(子音の刺さりなど)は強くは出さずに、ふわっとした感触の方を強く出す。声を張っているわけでもないのにアンサンブルの中での声の抜けが実によいという、やくしまるえつこの歌声の特徴もしっかりと再現。シンバルにせよ声にせよ、高音が綺麗に伸びて綺麗に響いていることが、こういった感触を生み出しているのだろう。
次ページ【おまけ】試作アルミ筐体の「KM01-TSUGARU」の音は?