[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第48回】輝け!“低音ホン”選手権 − 低音再生が充実したヘッドホン4機種を聴き比べ
■ソニー「MDR-XB920」:これぞ低音ホンと納得の低音ボリューム
早速まずはMDR-XB920から見ていこう。これはソニーの低音ホン「EXTRA BASS」シリーズの最新モデルで、既存のXB900をベースにファッション性を高めたことがポイント。サウンド的にはXB900と共通と考えてよい。50mmと大口径のドライバーと、ドライバーから鼓膜までの気密を高めるなどしたアドバンスド・ダイレクト・バイブ・ストラクチャーによって、低音の再現性を高めている。
では音の印象だ。今回は姉妹媒体の月刊「AVレビュー」の方でおなじみの「音の傾向表」を用意してみた。
傾向表も気に留めてもらいつつ、細かく紹介していこう。
まず大まかな印象としては、これぞ低音ホンと納得のボリューム満点の低音。低音の縦への沈み込みも横への広がりもそして厚みも文句なし。感触としては柔軟で、前述のボリューム感とも相まって包み込むような低音だ。
ダブステップ〜ポスト・ダブステップという界隈に位置づけられているらしいジェームス・ブレイクさんの「To Care(Like You)」という曲は、過剰なまでの存在感を放つベースが特徴。XB920はそれを、ドォウウウゥムゥウンとまさにヘッドホンと鼓膜の間の空気を低周波で揺らすように届けてくれる。圧倒的なまでの低音の沈み込み、ディープさだ。
またそのベースが他の音を埋もれさせてしまうことがないのもポイント。ボーカルもクリアだし、ハイハットのリズムもピシッと抜けてくる。リバーブ成分も厚く広がって空間は濃密だが、それでいて見通しも悪くはない。
ミシェル・ンデゲオチェロさんの「Dead Nigga Blvd.(Pt. 1)」はハードなヒップホップで、彼女自身が叩き出す強烈なベースが特徴だ。XB920はそのベースを柔軟に描き出す。本来であればこのベースはもっとアタックが速くて感触もゴリゴリとしていた方がふさわしいとは思うのだが、何しろ深くて厚い音色ではあるので説得力はある。腰の強さもよい具合だ。
この曲はドラムスもタイトに描き出す方が合うのだが、XB920ではタイトという傾向ではないもののキレは十分。ギターのカッティングのペラッとした音色もよい再現性だ。ボーカルもクリアで問題ない。
締めに僕の試聴基本三点セットである上原ひろみさん、相対性理論、宇多田ヒカルさんを聴いての印象。ベースの存在感の具合に感心。単純なバランスとしてはもちろんでかいのだが、人間で言うと人当たりがよいというか、存在感が大きいのに邪魔な感じはしない。音楽的なバランスは破綻はさせていない。まあそれにしても低音がでかいことはでかいのだけれど。
シンバルはすごく鋭利というわけではないのだがソニー的なシャープネスを感じらせる仕上がり。宇多田さんのボーカルはよい感じのウォームさ。声の輪郭線がシャープペン的ではなく2Bの鉛筆的というか、柔らかく暖かい。それでいて息づかいなどのシャープな成分も描き出せている。
次ページ続いてはオーディオテクニカ、「SOLID BASS」シリーズの上位モデルATH-WS99。