[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第81回】音楽をもっと楽しむための“イコライザー”設定テク&解説
■しっかり作り込まれた音質をわざわざ改変したくない
ひとつは心情的な問題として、「ミュージシャンやエンジニアが作り込んだ音質を再生時に改変することは避けたい」というもの。作品の音に恣意的に手を加えることは避けたいという考え方だ。気持ちとしては理解できる。
しかし現実的な話としてはそもそも、「制作時のモニター再生環境から聴こえていた音質」と「リスナーが自宅のオーディオ再生環境で聴くことのできる音質」には乖離がある。いわゆるモニター系の再生機器を揃えたとしても、だ。すると後者をイコライザーで「補正」した方が実はより前者に近い音を聴ける場合もあり得る。しかし最初に述べたようにこれは心情的な問題であるので、そこを曲げて無理に使う必要もない。
■イコライザーを通すと音声信号が乱れるのでは?
心情的ではなく実質的な問題として、「イコライザーを通すことで音声信号に乱れが生じる」ことへの不安が挙げられる。
一般的なイコライザーで音質を調整するとその動作の副作用として音の遅延や位相の乱れが発生する。理論的な解説は鴻池氏による「ECLIPSE『TD725sw』が最高峰であり続ける理由」に詳しいので、そちらを参照してほしい。
とにかく一般的なイコライザーにはそのような弊害がある。しかし現在においては各社が、その問題を可能な限り回避したイコライザー(の回路やプログラム)を開発・投入している。また僅かな副作用があるにせよ、イコライザーによる音質調整で得られる成果が副作用で失うものを上回るのであれば、それは有用な選択肢だ。そのように考えてイコライザーを的確に使いこなすのもまた、オーディオファンとして合理的でありかっこよくもある。
もちろんたいていの場合は物事はシンプルな方が好ましいので、イコライジングなしで正確なあるいは好みの音が出るような機器を揃えることが理想だ。しかしお財布や設置場所の事情で難しい場合もある。また曲や気分ごとに音を少し変えたい場合、その度ごとに機器を入れ替えるというのは、面白いけれど面倒だ。そういった場面でもイコライザーは有用だろう。
実際のアプリや機器におけるイコライザーの搭載例やそのパターンを見ていこう。
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