[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第81回】音楽をもっと楽しむための“イコライザー”設定テク&解説
高域も人間の聴覚が特に敏感な帯域だ。ここの調整は効果が大きい反面、加工が過ぎると不自然さも目立つ。慎重に調整したい。2kHzは1kHzと変化の傾向は似ているのだがもちろんニュアンスは異なり、何というかもっと派手に効く。なので今回はノータッチにしておく。
4kHzは、1kHzや2kHzと比べると大きめに動かしても効果が不自然になりにくい。ボーカルの変化の傾向はやはり開放感や明るさ、抜けといった要素。またこの帯域はギターやシンバルにカチッと硬質な抜けを与えたりそれを控えたりといった調整にも使える。それらは曲において細かなリズムを受け持っているので、今回は少し強調してリズムを立たせてみた。結果、高域については4kHzだけ少し持ち上げてみることに。
残りは超高域だ。ピアノの最高音の基音が約4.2kHzであることも考えて、それを超える帯域を超高域ということにしてみた。おおよその楽器の基音は含まれず倍音成分だけを調整できる帯域であり、他は声の質感や全体の空気感等に関わる。
8kHzはまず、全体の明るさとシンバルの存在感に明らかに大きく影響する。そして他の楽器も音色の基本は維持しつつ倍音の明暗のようなところが変わってくる。ボーカルは息づかいや質感といったところをどの程度出すかの調整。出しすぎると「サ行が刺さる」的なことになりやすい。この帯域は今回は少し足す方向で調整した。
16kHzは人間の可聴帯域や機器の再生帯域の限界すれすれだが、実際には明確に聴き取れる効果がある。グライコは16kHzのスライダーを動かすと16kHzだけが増減するわけではなく、16kHzを中心としたある程度の幅の一帯が増減されるので、例えば12kHzあたりにも影響はあるのだ。この帯域は少し持ち上げると全体を自然に明るくしてくれて、音場の抜けや開放感も増す。ここも今回は少し上げてみた。結果、8kHzと16kHzを共に少し足すことに。
全帯域をひとまず動かした後には、もう一度全体のバランスに違和感がないか、どこかの帯域が突出したりしていないかなどを確認。聴き直してみて違和感がないようであればイコライジング完成だ。
…というわけで「愛の重力」イコライジング完成!
なおイコライジングにおいては、強調したい帯域をブーストするのではなく他の帯域をカットする方が、無理のない自然な効き方や全体のバランスを得やすいというセオリーもある。それに従う場合はスライダー全体を凸凹を保ったまま一律に下げればよい。そうしてみたのをユーザープリセットとして名前を付けて保存したのが下の図版。
これはあくまでも僕の好みと使用機器、しかもこの「愛の重力」に特化したイコライザー設定であるので、そのまま流用してもよい効果は得られないだろう。結果ではなく過程、どの帯域をどんな意図でどのように操作したのか、そこをひとつの参考にしていただければと思う。
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