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【特別企画】4K映像や様々なBDソフト視聴で実力を検証

東芝「4Kレグザ Z9X」画質チェック − 大橋伸太郎が“プレミアム4K”の実力に迫る

公開日 2014/06/16 11:08 大橋伸太郎
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■BDソフトはどう表現するのか?

4Kネイティブの後に見たソフトが、英ロイヤルバレエによるカフカの『変身』バレエ版のBD作品。この作品は、舞台美術と照明による明暗(白と黒)の強烈な対比効果が演出上の特徴である。

テストの様子

58Z9Xの場合、高輝度部分の階調の豊かさに特徴がある。白で一貫した冷ややかな舞台装置(市民生活の象徴)の存在感に実物を前にしたような質感ニュアンスがあり、だから不条理劇の残酷な説得力がある。

また、映像の中でハイライト箇所はたいていの場合、スポットライトを浴びた俳優である。『変身』の場合、Z9Xなら白人ダンサーの肉体も自然な階調で描写され人肌ニュアンスと実在感が常に失われない。4K解像度とあいまって劇場でステージをみつめる一種緊迫した生々しい臨場感がある。この辺りは、ディスプレイ(テレビ)の輝度の考え方と製品でのコントロールについてレグザが一貫してリードする立場にある証左である。

高画質の実景映像での58Z9Xの他にないリアリティの背景にもう一つ、色域の広さがある。Z9XではDCIをカバーする広色域を達成した。最明色(現実の反射光下での物体色の限界)を考慮し色域を復元するため色の飽和がなく、肉眼で認識する色彩の範囲にある。だから、風景にせよ舞台収録にせよ、ビデオシューティングの実景映像が作り物に逸脱していくことがなく、肉眼視しているかのような実在感があるのだ。

広色域化でDCI領域をカバー

■『清洲会議』や『アナと雪の女王』などでも画質チェック

こうしたZ9Xのリアリズムは映画という虚構の世界でのリアリズムにも発揮される。今回ブルーレイディスクの劇映画から、昨年の日本映画のヒット作『清洲会議』とテレンス・マリックの近作『トゥ・ザ・ワンダー』を見た。いずれも画質に優れた実写作品だが、対照的な佇まいの映像である。

再生する映像ソースに合わせた様々な画質モードを備えている点もレグザの特徴のひとつ

『清洲会議』は本能寺の変と山崎合戦の後、織田家の後継者の決まった歴史的事件を描いた時代劇だが、ハリウッド映画の「グランドホテル」形式を取り入れたスタジオセット主体の群像劇で、清洲城を舞台に織田家の実権支配を狙いそれぞれ跡目候補をかつぐ羽柴秀吉と柴田勝家の丁々発止の権謀術数がテーマである。三谷幸喜らしいコメディ演出も見物。最近の日本映画(ビデオグラム)は従来のセットアップ設定を脱して暗部表現に秀でた作品が現れているが、本作もその一つで評定前夜の秀吉の暗躍をローソクの火を活かして撮影したシーンの美しさが出色である。

Z9Xで見る映像は暗部階調が滑らかで、しかもノイズが極めて少ない。ローソクの灯火が常時揺れているのだが、直下型ローカルディミングの動作が的確でコントラストが抜群に安定し光が膨張しない。APLの悪さも皆無だ。

何より感心したのは、佐藤浩市を始めとする俳優陣の駆け引きに揺れる表情の演技が、照明設定で逆光になった場合の描き方だ。逆光になっても常に4Kらしいディテールと階調の豊かさに溢れ、映画の主題である「歴史を決めた一夜」のスリリングなドラマ性を高め見るものを引き付けて離さない。

かつて55X3が出現した時に書いたことだが、4Kが生み出すリアリズムとは単に画素数が生み出す精細度によってのみ支えられるのではない。明暗の微妙な階調が増し電気的に生成された階調が現実の明暗に近づくことで生まれる、肉眼視しているかのような真実性によるものが大きいのだ。

■Z9Xは「4Kを“4K以上”に引き上げることに成功した」

もう一本の映画『トゥ・ザ・ワンダー』は、現代のフランス、アメリカを舞台に流動感のある撮影が特徴の、「意識の流れ」を映像に置き換えた叙事詩のような美しい映画。自然の風景の中で人間の肉体や表情を捉えたロケーション映像が頻出する。

ここでの58Z9Xは作為のない素直な階調と色彩の豊かさを発揮。過ぎ去って二度と帰ることのない輝くような愛の時間という演出と撮影の意図を完璧に再現し、叙情を画面いっぱいに溢れさせた。

3DCDアニメーション映画のヒット作『アナと雪の女王』も輸入盤でチェック。同作品ではDCIをほぼカバーする広色域が威力を発揮し、原色系の鮮鋭感、中間色の豊富さはもちろん、マゼンタ、シアン、イエロー、グリーンすべてのスペクトルの色彩が鈍らず常にバランスが整っている。解像力が非常に高く2Dでも立体感が豊かなことも特筆に価する。

Z9Xは、単に第三世代4Kテレビを主導する存在ではない。みつめている世界が他社製品より遠くにある。東芝の高画質技術を高めて再結集し、4Kを“4K以上”に引き上げることに成功したのである。新たな扉はまたも東芝によって開かれた。

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