山之内正が70〜80年代ヤマハHi-Fi製品を振り返りつつ語る
最新モデル「A-S2100」「CD-S2100」が継承する、ヤマハ歴代Hi-FiのDNA
■ヤマハの歴代コンポーネントに脈々とつながる伝統
オーディオ全盛期を経験した世代に特有の感覚かもしれないが、ヤマハのアンプやCDプレーヤーのデザインには懐かしさを感じることが多い。さらに不思議なのは、中身は完全に生まれ変わっているのに、サウンドにもどこか以前の製品と共通する要素があるような気がしてならない。
それがいつ頃の製品なのかというと、筆者の場合は1970年代後半から80年代前半あたりまで遡る。具体的なモデルではプリメインアンプのCA-2000、プリアンプC-2a、スピーカーのNS-1000M、アナログプレーヤーではGT-2000などが思い浮かぶが、このなかでC-2aとNS-1000Mは実際に自宅で使っていたので鮮明な記憶が残っている。
思い出すままに音の特徴を挙げると、澄んだ中高域となめらかな質感が両立し、低域もすっきりと抜けがいいことなど、現代でも通用しそうな要素が多い。現行製品と通じるデザインの志向という点ではCA-2000やその前のCA-1000などがかなり近いと感じる。どちらも70年代のプリメインアンプなのだが、特に縦長形状のスイッチの感触はいまでもよくおぼえているし、ナチュラルウッドがたたえる上質なテイストも忘れがたい。
ヤマハのハイファイコンポーネントはSoavoやS2000シリーズを契機に再び本格志向を強め、昨年のS3000シリーズでさらに一段上のステージに上った感があるが、その流れを受け継ぐ重要な新製品がA-S2100とCD-S2100である。ヤマハの歴代コンポーネントに脈々とつながる伝統は、最新モデルからも聴き取ることができるのだろうか。
S2000シリーズから7年を経た今回のモデルチェンジは広範囲に及び、中身は生まれ変わって音も変化した。その変化の中身を大きくとらえるとS3000から継承した要素が小さくないのだが、フラグシップとは異なる新しい志向も感じられ、ハイレゾ音源の浸透など新しい潮流を意識したと思われる進化も聴き取ることができる。具体例をいくつか紹介しよう。
■透明感と質感の高さはヤマハの歴代オーディオ機器に共通する資質の一つ
CD-S2100をCD-S3000と比べると、DACをはじめとする一部のパーツやメカの固定方法など、細部にはいろいろな違いがある。だが、ドライブメカやアナログ回路などの共通点も多く、基本的なコンストラクションも変わらない。そのため、部品のグレードを多少落としたとしても、妥協を余儀なくされているという印象は受けない。S/Nや情報量などの基本性能をしっかり確保しているし、デバイスの差による音の違いや響きの変化をプラスに生かすことで、志向を微妙に変えながらも音楽的なバランスに誇張や演出はなく、ナチュラルにまとめている。
ジャズボーカルはリズムを刻むベースやピアノの動線が鮮明で躍動感に富み、声には張りのある明るさと温度感の高さ、熱っぽさが実感できる。しかし、パーカッションにスパイスを効かせたり、ボーカルの子音を強めに立てるような味付けはなく、音色はあくまでもナチュラル志向。素材の味を引き出しつつ、鮮度の高さを際立たせるアプローチに好感を持った。
ソル・ガベッタがソロを弾くエルガーのチェロ協奏曲は、チェロの一番低い弦(C線)の基音に太さと豪快さがあり、演奏のスケールがひと回り大きくなったような伸びやかさを聴き取ることができた。オーケストラの響きも重量級だが、低弦やティンパニがふくらみすぎることがなく、タイトな音色をキープしている。緩めの低音が好みというクラシックファンもいるので断言はできないが、適度にエッジの利いた低音を引き出すCD-S2100はクラシックファンにもぜひお薦めしたい。
USB経由のハイレゾ音源再生は、倍音の領域まで素直な特性を実現しているためか、ハーモニーの美しさを強く印象付ける。オーケストラの弦楽器群と木管楽器の響きが自然に溶け合う響きの美しさや、アカペラの合唱の精妙なハーモニーなど、アコースティックな空気の共鳴をとらえた録音とは特に相性がよく、澄み切った音場に余韻が広がる様子を立体的に描写した。透明感と質感の高さはヤマハの歴代オーディオ機器に共通する資質の一つで、ディスク再生だけでなく、ハイレゾ音源の再生でもその長所を生かしていると感じた。
A-S2100はA-S3000と同様、出力素子に±同一極性のMOS-FETを採用したフローティング&バランスパワーアンプを採用しており、信号の損失を抑えるねじ止め結線や低インピーダンス設計の徹底など、基本的な設計コンセプトを上級機と共有している。その一方で電源トランスには大容量のEI型トランスを採用するなど、A-S3000とは異なる部分も少なくない。CD-S2100とCD-S3000の関係もそうだが、パーツや筐体の違いに由来する音の差を積極的に活かし、上位機種とは別の方向を目指してA-S2100ならではのアイデンティティ獲得を狙っていることがうかがえる。
オーディオ全盛期を経験した世代に特有の感覚かもしれないが、ヤマハのアンプやCDプレーヤーのデザインには懐かしさを感じることが多い。さらに不思議なのは、中身は完全に生まれ変わっているのに、サウンドにもどこか以前の製品と共通する要素があるような気がしてならない。
それがいつ頃の製品なのかというと、筆者の場合は1970年代後半から80年代前半あたりまで遡る。具体的なモデルではプリメインアンプのCA-2000、プリアンプC-2a、スピーカーのNS-1000M、アナログプレーヤーではGT-2000などが思い浮かぶが、このなかでC-2aとNS-1000Mは実際に自宅で使っていたので鮮明な記憶が残っている。
思い出すままに音の特徴を挙げると、澄んだ中高域となめらかな質感が両立し、低域もすっきりと抜けがいいことなど、現代でも通用しそうな要素が多い。現行製品と通じるデザインの志向という点ではCA-2000やその前のCA-1000などがかなり近いと感じる。どちらも70年代のプリメインアンプなのだが、特に縦長形状のスイッチの感触はいまでもよくおぼえているし、ナチュラルウッドがたたえる上質なテイストも忘れがたい。
ヤマハのハイファイコンポーネントはSoavoやS2000シリーズを契機に再び本格志向を強め、昨年のS3000シリーズでさらに一段上のステージに上った感があるが、その流れを受け継ぐ重要な新製品がA-S2100とCD-S2100である。ヤマハの歴代コンポーネントに脈々とつながる伝統は、最新モデルからも聴き取ることができるのだろうか。
S2000シリーズから7年を経た今回のモデルチェンジは広範囲に及び、中身は生まれ変わって音も変化した。その変化の中身を大きくとらえるとS3000から継承した要素が小さくないのだが、フラグシップとは異なる新しい志向も感じられ、ハイレゾ音源の浸透など新しい潮流を意識したと思われる進化も聴き取ることができる。具体例をいくつか紹介しよう。
■透明感と質感の高さはヤマハの歴代オーディオ機器に共通する資質の一つ
CD-S2100をCD-S3000と比べると、DACをはじめとする一部のパーツやメカの固定方法など、細部にはいろいろな違いがある。だが、ドライブメカやアナログ回路などの共通点も多く、基本的なコンストラクションも変わらない。そのため、部品のグレードを多少落としたとしても、妥協を余儀なくされているという印象は受けない。S/Nや情報量などの基本性能をしっかり確保しているし、デバイスの差による音の違いや響きの変化をプラスに生かすことで、志向を微妙に変えながらも音楽的なバランスに誇張や演出はなく、ナチュラルにまとめている。
ジャズボーカルはリズムを刻むベースやピアノの動線が鮮明で躍動感に富み、声には張りのある明るさと温度感の高さ、熱っぽさが実感できる。しかし、パーカッションにスパイスを効かせたり、ボーカルの子音を強めに立てるような味付けはなく、音色はあくまでもナチュラル志向。素材の味を引き出しつつ、鮮度の高さを際立たせるアプローチに好感を持った。
ソル・ガベッタがソロを弾くエルガーのチェロ協奏曲は、チェロの一番低い弦(C線)の基音に太さと豪快さがあり、演奏のスケールがひと回り大きくなったような伸びやかさを聴き取ることができた。オーケストラの響きも重量級だが、低弦やティンパニがふくらみすぎることがなく、タイトな音色をキープしている。緩めの低音が好みというクラシックファンもいるので断言はできないが、適度にエッジの利いた低音を引き出すCD-S2100はクラシックファンにもぜひお薦めしたい。
USB経由のハイレゾ音源再生は、倍音の領域まで素直な特性を実現しているためか、ハーモニーの美しさを強く印象付ける。オーケストラの弦楽器群と木管楽器の響きが自然に溶け合う響きの美しさや、アカペラの合唱の精妙なハーモニーなど、アコースティックな空気の共鳴をとらえた録音とは特に相性がよく、澄み切った音場に余韻が広がる様子を立体的に描写した。透明感と質感の高さはヤマハの歴代オーディオ機器に共通する資質の一つで、ディスク再生だけでなく、ハイレゾ音源の再生でもその長所を生かしていると感じた。
A-S2100はA-S3000と同様、出力素子に±同一極性のMOS-FETを採用したフローティング&バランスパワーアンプを採用しており、信号の損失を抑えるねじ止め結線や低インピーダンス設計の徹底など、基本的な設計コンセプトを上級機と共有している。その一方で電源トランスには大容量のEI型トランスを採用するなど、A-S3000とは異なる部分も少なくない。CD-S2100とCD-S3000の関係もそうだが、パーツや筐体の違いに由来する音の差を積極的に活かし、上位機種とは別の方向を目指してA-S2100ならではのアイデンティティ獲得を狙っていることがうかがえる。
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