IE800やHD800などの実力を改めて検証
ゼンハイザーの“超定番”ハイエンドモデルで名盤を聴く
■イヤホンとは思えないほどダイナミックなサウンド「IE800」
まずはカナル型イヤホンのフラッグシップモデル「IE800」からだ。サウンドキャラクターをひとことで表現するとすれば、クリアでのびのびとした音色傾向とダイナミックで迫力ある抑揚表現を巧みに両立させた、良質なサウンドだ。
どんなジャンルでも表情豊かに、きめ細やかに表現してくれる基礎体力の高さを持つが、最も得意とするのは、やはりアコースティックな演奏だ。例えばベートーヴェンでは、クラシックならではの幅広いダイナミックレンジを苦もなく表現しきり、かつ、重奏感もしっかり描ききってくれる。ホールへの音の広がり感も余さず伝えてくれるなど、まるで良質なスピーカーを聴いているかのような、カナル型イヤホンとは思えない表現力の高さだ。
特に金管楽器のきらびやかさは特筆もので、ハッと目をひく印象的なフレーズを奏でてくれる。一方で重心の低い、きれいなピラミッドバランスの帯域特性を持ち合わせているため、ジャズもなかなか。マイルス・デイビスは、たっぷりしたボリュームを持つ、それでいてフォーカス感の高いベースの音によって、演奏がとてもリズミカルに感じられる。これに鋭く力強いトランペットの音色と、キレのよいタッチのピアノが重なることで、素晴らしいグルーブ感を感じさせてくれる。
そういったリズミカルなサウンドキャラクターは、ビートルズやピンクフロイドの曲とも相性がよく、どちらもダイレクト感の高いクリアなヴォーカルと、ノリのよいドラム&ベースによって、活き活きとした演奏を楽しませてくれる。
意外だったのが、アニソンChouChoとの相性の良さだ。生バンドを使っているということもあるのだろう、ピアノ、ギター、ドラム、ベースがそれぞれリッチな音色と厚みを持ち、それでいてしつこ過ぎず、キレのよいグルーブ感満点のサウンドを堪能させてくれる。さらに煌びやかな高域はChouChoの声とも相性ぴったりで、一段と声が伸びやかに、印象的に感じられ、音楽の世界にのめり込んでいける。イヤホンならではのダイレクト感と、イヤホンらしからぬ多彩かつダイナミックなサウンド表現が、「IE800」ならではのアドバンテージをといえる。