藤岡誠のオーディオワンショット - MCカートリッジのバランス伝送・昇圧方式への誘い＜その2＞

（3）バランス伝送対応フォノEQアンプ

「バランス伝送対応フォノEQアンプ」は、海外メーカー製が多い。今回ここで紹介する製品のメーカー名を列記すると、オクターブ（ドイツ）、ケンブリッジオーディオ（オーストリア）、BMC（ドイツ）、Ayre（アメリカ）。これらのメーカー製は本体だけでMC型カートリッジのバランス増幅機能を持つ。つまり、バランス伝送対応昇圧トランスを必要としない。ほとんどは半導体（トランジスターやOPアンプ）の構成だが、オクターブのように別売のバランス伝送対応の各種モジュールを必要に応じて選択し、真空管方式（ハイブリッド）のフォノEQへ送り出して対応するタイプもある。

ちょっと横道にそれるが、マークレビンソンが1999年に発売したプリメインアンプ「No.32L」が、フルバランス・フォノEQモジュール（別売）の内部への増設が可能だった。残念ながら当時は、関連する周辺の環境が整っておらず、輸入元も、MC型カートリッジのバランス伝送についてプロモーションをほとんど行わなかったこともあって、2008年まで発売されていたにも関わらず、プリメインアンプとしての評価ばかりが先行。この増設機能は市場で認知されないまま終焉してしまった。言い方を変えれば、あの当時のマークレビンソン社のアナログ再生における明らかな先見性だった、と捉えていいのだが・・・。

ここで唯一のメイドインジャパンとしてテクニカルブレーンを挙げるが、それは重量25kgで自社のバランス伝送対応昇圧トランス（前出）と組合せて使用するのが理想。この場合の組合せ価格は￥3,528,000と極めて高額になる。

超高額製品は海外メーカーにもあって、FMアコースティクス、ボルダーの2社にその姿を見ることができる。興味のある方は輸入元のWebサイトあるいはカタログなどで研究されたい。

さて、あらかじめ明確化しておくが、MC型カートリッジ用のヘッドアンプを内蔵するバランス伝送対応フォノEQアンプは、製品・機種によっては期待外れのS/N感しか得られない場合があるから“要注意”であることを事前に記しておく。つまり、発電コイルの片側がアースラインから切り離されているから、従来型MC型対応フォノEQアンプよりもSN比が向上するはずだというのは、あくまでも机上のいい方であって、絶対に向上するとはいえない現実があるということを認識してほしいのである。それは昨今のトランジスター・半導体自体のSN比が低下傾向にあるという寂しい現実があるからだ。理論と実際の狭間の落とし穴ということである。

以上、バランス伝送対応フォノケーブル、バランス伝送対応昇圧トランス、あるいはバランス伝送対応フォノEQアンプの3ジャンルのそれぞれの役割が、MC型カートリッジ出力のバランス伝送を実行するにあたって重要である。

■次回から実際に試聴したフォノケーブルやフォノEQの具体的なモデルを紹介する

そして実行を具体化にあたっては、現用装置に追加・アレンジする場合と装置全体を新規に組合せる場合とでは、構成の手法に若干の違いはあるが、その辺の判断は“予算”と“オーディオ心”が関わってくるわけで、それらについては皆さんにお任せする。
いずれにしてもそれなりの費用を必要とするが、実行自体に特別な難しさはないから安心されたい。

また、今回は一部のメーカー名には触れているものの、モデル名には一切触れていない。その理由は明白で、例えば、フォノケーブルは内外に無数というと大袈裟だが、相当数が展開されている。それらを記載したらややこしい。フォノケーブルに限らず、中には信じ難いほどの高額なタイプも少なからず存在する。現在、あれこれと篩（ふるい）に掛けている最中で、私としては実際に自宅で試聴、厳選した上でシンプルに紹介し、その上でお薦めの組合せを提案しようと考えているからだ。

実は、篩に掛けて厳選するために、長く別室にキープしていた私のかつてのリファレンス・アナログプレーヤーを復活させた。それは3本アームに対応で重量が約68kg。今回の、作業には私にとって必需だったからだ。

次号“その3”では、実際に試聴したフォノケーブル、昇圧トランス、そしてフォノEQアンプについて型名などを明らかにしながら具体を紹介することになる。