音楽ファンのための “ネットオーディオ” 完全ガイド【第4回】ライブラリを構築する
ライブラリを構築する前に
ライブラリには、当然ながらその構成要素となるデジタルファイルとしての音源が必要です。まずは音源を手に入れなければ何も始まりません。どのようにしてデジタルファイル音源を手に入れるかと言えば、大きく分けて、CDのリッピングと配信サイトからのダウンロードの二つの方法あります。
本連載を見ているような人なら、新しく何かをダウンロードするまでもなく、多くのCD資産があろうかと思います。そして、これだけ音源配信サービスが浸透したと言っても、今までに積み上げられてきたCDのライブラリ全体からすれば、配信で手に入る音源はまだまだほんの一部でしかないのが現状ではないでしょうか。そして、せっかく持っているCDを無駄にする手はありません。
以上のことから、デジタルファイル音源を手に入れる方法として、現実的にはCDのリッピングが真っ先に挙げられると思われます。CDを多く所有する人ほど、潜在的に巨大なデジタルファイル音源のライブラリを持っているということになります。大切なCD資産に新しい命を吹き込むためにも、まずはリッピングという作業が必要になります。
というわけで、いざリッピング!
……の前に、考えておかなければいけないことがあります。
ライブラリを構築するための「自分ルール」
「フォルダ/ファイル名とタグは別物」という話を何度もしてきました。それを踏まえて、こんなライブラリを作ってみました。ライブラリとは言っても、中身のアルバムは2枚だけ、Tingvall Trioの『Skagerrak』と、Michael Jacksonの『King of Pop - Japan Edition』です。以下の画像のように、フォルダ構造は「音源フォルダ」→「ジャンル」→「アーティスト」→「アルバム」としました。
では、これらをソフトの側から見てみましょう。サーバーソフトにはTwonky Server、コントロールアプリにはライブラリの構造が見やすいDiXiM DMCを使用します。
「アルバム」は良いのです。
ところが……
なんじゃこりゃ、です。
とはいうものの、程度の差はあれ、様々な局面でこのような状況を目にした経験のある方も多いのではないでしょうか。むしろ、タグについて理解する以前、学生時代の筆者のライブラリは、まさにこんな……いや、もっと酷い有様になっていました。
何も考えず、何もかも機械/ソフト任せにしてリッピングを繰り返した結果、ジャンルやアーティストを含むライブラリのあらゆる領域で分散と断裂が生じ、聴きたい音源を探し出すことが著しく困難になっていきました。さらに、深く考えないまま使用するソフトをあれこれと乗り換えた結果、フォルダベースでの管理もいい加減になり、音源の情報がタグとフォルダ/ファイル名で一致しないことも頻繁にありました。いつしか筆者のライブラリはまともに管理さえ受け付けない正体不明の塊になり、破綻しました。まさに第1回で書いたような、「素直にCDを使っていたほうがよほどよかった」という状況に陥ったわけです。
結局、あらためてネットオーディオに取り組もうと一念発起した時、ライブラリの構築はゼロからの再スタートを余儀なくされました。
リッピングでも、ダウンロードでも、音源を手に入れ、ライブラリを構築しようとする、その前に。
まず、考えましょう。自分にとって良いライブラリとはどのようなものか。そして、そのライブラリを構築するうえでの「自分ルール」を作りましょう。そうでなければ、いずれライブラリが破綻してしまう可能性もあります。
タグの「ジャンル」において、「Jazz」「JAZZ」「ジャズ」、あるいは「Pop」「POP」「ポップ」が並立する意味はありません。むしろ、選曲の際に不要な混乱を引き起こすだけです。「アーティスト」において、「Michael Jackson」と「マイケル・ジャクソン」が並立する意味もありません。ユーザーの明確な意図があるなら話は別ですが。
あるCDをリッピングする際、リッピングソフトが自動的にジャンルを「Pop」としたとしましょう。その時、ユーザーが「違う! これはRockだ!」と思うなら、Rockに変えてしまっても何の問題もありません。あるアーティストのアルバムが複数のジャンルに分散することを良しとしない場合もあるでしょう。例えば「YesのアルバムはすべてProgressive Rockだ!」と思った時、それを押し通すのはユーザー自身です。リッピングソフトではありません。日本人アーティストで、表記を「苗字 名前」とするのか、それとも「苗字名前」とするのかもユーザー次第です。ライブラリの分断を防ぐために、ルールを決めて統一しましょう。
クラシックの音源になればルール作りはさらに大変です。例えば「アーティスト」に指揮者を入れるのか、それとも作曲家を入れるのか、あるいはソリストを入れるのか、などなど、その選択は究極的にはひとりひとりに委ねられています。使えるタグを総動員して臨みましょう。
一方で、例えば「リリース年は気にしない!」「クラシック以外では作曲者は気にしない!」など、自分にとって必要な情報を見極め、割り切ることも重要です。また、ダウンロードした音源は、自分にとって好ましい形でタグが整備されているとは限りません。確認し、必要であれば編集しましょう。
音源フォルダの構造もよく考えましょう。音楽を聴く場合と、管理する場合とでは、自分にとって使いやすい階層構造が異なるかもしれません。
タグベースとフォルダベースの両面で自分にとって良いライブラリを作るためには、このような「自分ルール」が必要になります。ユーザーの意思を反映させない限り、いずれライブラリに意図しない分断が生まれ、最終的に破綻する可能性が生じます。
最初が肝心です。ライブラリの構築とは手を抜いた途端に破綻の種を孕んでしまうほどデリケートなものですが、ネットオーディオの真価たる「快適な音楽再生」を実現するうえでなくてはならないものです。
しっかりとした自分ルールに基づいて構築されたライブラリは、「好きな音楽を好きなように好きなだけ聴ける」、まさに「自分にとって理想のライブラリ」となります。
そして音源の集合体としてのライブラリは、使う機材やソフトが変わっても共通のものです。ライブラリを完璧に仕上げてしまえば、再生システムやソフトの変更・乗り換えを恐れることはありません。自分で作り上げたライブラリであり、何よりも自分自身がライブラリを隅々まで把握しているので、機材やソフトによる特性、あるいは表示のくせなども瞬く間に理解できるようになります。
逆に、どれだけ機材やソフトを変えたところで、破綻したライブラリがひとりでに生まれ変わるなどということはありません。さらに言えば、ライブラリが破綻した状態で、特定の機材やソフトの使い勝手を判断することなど不可能です。