最新のハイレゾ音源からアナログ盤までを試聴して音質を検証
フィリップスの新フラグシップヘッドホン“Fidelio”「X2」を中林直樹がレビュー
■ハイレゾ音源の細かな音も全て拾い上げ、大きなサウンドスケープを描き出す
では最初に、近頃リリースされたハイレゾ音源から聴いてみよう。坂本龍一の『out of noise』。CDのリリースは2009年3月(期間限定で48kHz/24bit AIFFで配信されたこともある)だが、このほどDSDを含むハイレゾでリリースされた。96kHz/24bitおよび48kHz/24bitのマスター音源を元に、オノセイゲンがDSDやPCMにリマスタリングを施している。一昨年話題になった『Merry Christmas Mr.Lawrence -30th Anniversary Edition-』と同じ発想だ。
さて、このアルバムは坂本の演奏はもちろん、各地でフィールドレコーディングされた音源が散りばめられている。楽器が作り出す音と自然が作り出す音との融合。それは、果たしてどちらがnoiseなのかを問いかけられているようでもある。「ice」は北極圏の海にマイクを沈めて録音した音に、小山田圭吾のエレキギターが重なる。そこにメロディーらしきものはない。それをX2は細かな音も全て拾い上げ、大きなサウンドスケープを描き出してくれる。
続く「glacier」では北極圏の氷河にできた洞窟の中で鳴らしたベルの音や、氷河を流れる水の音をベースにピアノやエレキギターなどが配置される。このトラックも大きな空間で描き出されたのが印象的だった。始終聴こえてくる水の音、その奥や手前、左や右に楽器の音がぽつりぽつりと現れては消える。非常に立体的だ。そして、目を閉じて聴いていると、どこか異世界に連れて行かれそうな感覚にさえ陥ってしまう。それはやはり耳の周囲に音が広がり、同時に音そのものが曖昧になっていないからだろう。小型のスピーカーでは到底体験できない世界ではないだろうか。
次も昨年最も多く聴いたアルバムのひとつ、高野寛の『TRIO』(96kHz/24bit)で検証してみたい。この新作はデビュー25周年を記念してリオデジャネイロで録音されたものだ。カエターノ・ヴェローゾの息子で、高野とも以前から親交のあるモレーノがプロデューサーを務めている。
冒頭の「Dog Year, Good Year」を再生すると、ゆったりとした空間が広がり出した。スタジオの空気までを含んだかのような録音が特徴的なアルバムだが、まさにその部分を上手く引き出している。ブラジル人のミュージシャンたちとセッションを楽しむ姿を想像したりもした。高野のボーカルはマイルドであると同時に、声の強弱もビビッドに感じられた。そのためブレスが実にリアルで、ときおり官能的でさえあった。ベースやドラムス、アコースティックギターは角が取れ、耳に心地よく響く。さらにスピード感を感じたいならヘッドホンアンプを使用すると良いだろう。いくつかのアンプとのスクランブルテストも面白そうだが、それはまたの機会の楽しみとして取っておこう。
このアルバムにはセルフカバーも含まれている。「いつのまにか晴れ」(原曲は1989年の『RING』に収録)はボーカルとアコースティックギターによる弾き語りだ。ここでも高野の歌声は優しげで伸びやか。マイクと口の距離をコントロールしながら、曲に感情を込める様子が伝わってくる。ギターは抑揚が丁寧に描かれ、中高域には程よい輝きも出ている。また、響きが極めて自然で、スタジオの中、もしくは小さなライブハウスで向き合っているかのようだった。
では最初に、近頃リリースされたハイレゾ音源から聴いてみよう。坂本龍一の『out of noise』。CDのリリースは2009年3月(期間限定で48kHz/24bit AIFFで配信されたこともある)だが、このほどDSDを含むハイレゾでリリースされた。96kHz/24bitおよび48kHz/24bitのマスター音源を元に、オノセイゲンがDSDやPCMにリマスタリングを施している。一昨年話題になった『Merry Christmas Mr.Lawrence -30th Anniversary Edition-』と同じ発想だ。
さて、このアルバムは坂本の演奏はもちろん、各地でフィールドレコーディングされた音源が散りばめられている。楽器が作り出す音と自然が作り出す音との融合。それは、果たしてどちらがnoiseなのかを問いかけられているようでもある。「ice」は北極圏の海にマイクを沈めて録音した音に、小山田圭吾のエレキギターが重なる。そこにメロディーらしきものはない。それをX2は細かな音も全て拾い上げ、大きなサウンドスケープを描き出してくれる。
続く「glacier」では北極圏の氷河にできた洞窟の中で鳴らしたベルの音や、氷河を流れる水の音をベースにピアノやエレキギターなどが配置される。このトラックも大きな空間で描き出されたのが印象的だった。始終聴こえてくる水の音、その奥や手前、左や右に楽器の音がぽつりぽつりと現れては消える。非常に立体的だ。そして、目を閉じて聴いていると、どこか異世界に連れて行かれそうな感覚にさえ陥ってしまう。それはやはり耳の周囲に音が広がり、同時に音そのものが曖昧になっていないからだろう。小型のスピーカーでは到底体験できない世界ではないだろうか。
次も昨年最も多く聴いたアルバムのひとつ、高野寛の『TRIO』(96kHz/24bit)で検証してみたい。この新作はデビュー25周年を記念してリオデジャネイロで録音されたものだ。カエターノ・ヴェローゾの息子で、高野とも以前から親交のあるモレーノがプロデューサーを務めている。
冒頭の「Dog Year, Good Year」を再生すると、ゆったりとした空間が広がり出した。スタジオの空気までを含んだかのような録音が特徴的なアルバムだが、まさにその部分を上手く引き出している。ブラジル人のミュージシャンたちとセッションを楽しむ姿を想像したりもした。高野のボーカルはマイルドであると同時に、声の強弱もビビッドに感じられた。そのためブレスが実にリアルで、ときおり官能的でさえあった。ベースやドラムス、アコースティックギターは角が取れ、耳に心地よく響く。さらにスピード感を感じたいならヘッドホンアンプを使用すると良いだろう。いくつかのアンプとのスクランブルテストも面白そうだが、それはまたの機会の楽しみとして取っておこう。
このアルバムにはセルフカバーも含まれている。「いつのまにか晴れ」(原曲は1989年の『RING』に収録)はボーカルとアコースティックギターによる弾き語りだ。ここでも高野の歌声は優しげで伸びやか。マイクと口の距離をコントロールしながら、曲に感情を込める様子が伝わってくる。ギターは抑揚が丁寧に描かれ、中高域には程よい輝きも出ている。また、響きが極めて自然で、スタジオの中、もしくは小さなライブハウスで向き合っているかのようだった。