[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第133回】ニューヨーク感ハンパない! Master & Dynamicのヘッドホンレビューを多摩方面からお届け
■MH40とMH30のサウンドをチェック!
今回はUSB-DAC/ヘッドホンアンプOPPO「HA-1」をメインの試聴システムとしてその際の印象を中心に評価。HA-1からアナログ入力のみの純ヘッドホンアンプBURSON AUDIO「Soloist SL」につないだシステム、ポータブル環境を想定してAstell&Kern「AK120II」での試聴も補助的に行った。
▼MH40
まず音調の概要をざっと述べると、高域が綺麗にシャープ。音色本来の歪み等はもちろん生かすがそれを強調することなく、透明感の高い高域表現。声やギターは滑らかな音色。中低域はどっしりとした重みを出しつつそれでいてリズムがもたらない絶妙さ。
強いて言えば音の立ち上がりの速さは速くはない。しかし一般論的に遅いというわけではなくて普通レベルはもちろん確保。このヘッドホンは他の要素のレベルが高いので、それらと相対的に考えるとこの要素については「速くはない」といった表現になるといった程度のことだ。
ではもう少し詳しく具体的に見ていこう。上原ひろみ「ALIVE」のシンバルの音色では、前述の高域の綺麗なシャープさ、透明感」が特にわかりやすい。例えばクラッシュシンバル強打の「ガシャーン」という音はその濁点の炸裂感や歪み感を綺麗に出してくれる。元から炸裂や歪みを含む音色こそ再生機器側でそれをさらに強めてしまうと嫌な濁りになりやすいが、MH40はそういうことがない。
この曲では演奏できる(しやすい)音域を拡大した多弦ベースが使われており、かなり低い音域までを幅広く使ったベースラインも多用される。MH40はそのベースの低い音もしっかり沈み込ませてくれる印象だ。さほど大型というわけでもなくヘッドホンでのこの低域は見事と言える。ただしベースの輪郭はいまどきのハイエンドの中では特に明瞭な方ではない(不明瞭というほどでもない)。逆に言えば低音がバキッと明瞭なタイプが苦手な方には合いそうだ。
続けて相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」でもまずは低音の傾向を確認。バスドラムの空気感は少し柔らかめで少し大柄でいい感じ。太鼓自体の太さもよいが、そこから広がる低音の空気感の雰囲気がしっかり出ていることがポイント。ベースもやはり少しソフトではあるがこれはこれで悪くない。音の感触は少しソフトだが音像が緩く広がるわけではないからだ。
ボーカルはざらつきや掠れといった、声の質感のハスキーな成分をしっかり出してくれて、それでいてその出し方が耳障りではない。おかげで声の特徴を気持ちよく楽しめる。先ほどのシンバルと同じで高域の綺麗さのおかげではないかと思う。クリーン〜クランチ、微かに歪ませた感じのギターのその艶にも感心させられた。なおいわゆる「空間性」的な部分も密閉型としては上位と評価できるレベル。
TECHNOBOYS P.G.「SHaVaDaVa in AMAZING♪(OUT OF LOGIC)」でも声とギターは実によかった。その上でこの曲で特にのポイントとなるとベースだ。低音弦低音域でのドライブ感のあるフレーズにアクセントとして高音弦でのプル(弦を引っ掛けてパチンと弾く奏法)が混じる、そのプルの弾けっぷりは特別によくはない。前述の「音の立ち上がりは普通レベル」というところだ。しかしこれまた前述のように低い方の音の沈みがぐいっとしっかりしているので、それとの落差、コントラストは十分に鮮やか。落差を確保しつつフレーズや音の湿度感、滑らかさを感じられるコンビネーションで、これもまたこれはこれで悪くないかもしれない。
さてここまではHA-1での印象だが、これをSoloist SLにつないだシステムやAK120IIの場合はどうなるかというと、そのふたつはHA-1からは明らかな変化があった。どちらも共通でHA-1よりはすっきりとしてタイトなサウンドになる。HA-1は濃密な表現を得意とする印象なので、それと比べた場合にすっきりするというのはまあ妥当だろう。
据え置きでバシッとわかりやすい解像感を狙いたいならSoloist SLはよい選択かもしれない。また例えばK812より中低域の厚み重みに特徴があるヘッドホンとの組み合わせなら、それを土台にして高域のシャープネスを高められることで全体のバランスも整いそうだ。
ポータブル機のAK120IIはもちろん据え置きヘッドホンアンプに比べればパワーは足りないが、MH40の魅力は十分に引き出せてはいる。MH40+ポータブルプレイヤーの組み合わせも普通に検討してよさそうだ。