ドライブメカからUSB-DACまで刷新
デノンが示すハイレゾ時代のディスクプレーヤーの理想形。「DCD-SX11」レビュー
SACD化されたコルトレーンの『ブルー・トレイン』は、比較的最近のCDで聴きなじんだ太めの音ではなく、マスターに忠実に再現したと思われるすっきりとしたサウンドが蘇っている。その音源を本機で聴くと、たしかにサックスやトロンボーンの音像にまとわりつく付帯音がなく、リアルな楽器のイメージが定位するが、特筆すべきはそれぞれのプレイヤーが持っている個性や演奏のテンション、温度感が聴き手の耳に確実に届くことだ。
■PMA-SX11との純正組みあわせで見せた進化/真価
次にアンプをPMA-SX11に変更し、純正の組み合わせでディスクの音を聴く。低重心のバランスは変わらず、量感のある低音を引き出すが、ベースが広がったり、バスドラムが過剰にふくらむことがなく、音像はちょうど良い具合に引き締まっている。価格がほぼ2倍近くのプリメインアンプからつなぎ変えたので、低音の制動力にもっと大きな差が出ると想像していたが、そうではなかった。PMA-SX11のアンプ性能が大きく寄与していると思うが、それだけではなく送り出し側であるDCD-SX11の低音の質感が向上し、速さの再現性と音色の描写力が上がっていると感じる。
さきほどのR.シュトラウスも、低音の質感向上の好例だ。短い音符を勢い良く刻む低弦だけでなく、ティンパニの一撃も響きが素直に止まり、動的なレスポンスが優れていることに気付く。立ち上がりが速く勢いがあるので量感不足を感じることはないし、付帯音が少ないので音場の見通しも良い。その感触は前作のDCD-SA11も含め、デノンのこれまでのディスクプレーヤーとは明らかに異なるものだ。
■ディスク再生のための共振対策と低重心化がハイレゾ音源再生にも寄与
USBメモリーやUSB-DACによるデータ再生でも、マスターとの距離が近付く感触を確実に聴き取ることができた。マスターと同形式でダウンロードしたピアノ独奏は、音色の透明感が際立つとともに、弦の振動だけでなく響板やボディなど、楽器全体が共鳴している様子がリアルに伝わってきた。これはS/Nや空間再現など、基本的な性能を確保したシステムでなければ成し得ないことで、本機のノイズ対策が確実な効果を上げていることがわかる。
本機で聴いた複数のハイレゾ音源のなかで、音の鮮度の高さが際立っていたのがパイプオルガンの独奏である。低音から高音まで均一なエネルギー分布、揺らぎのない超低音、そして余韻が広がる空間の大きさと透明感の高さなど、膨大な情報を有するハイレゾ音源でなければ再現できない表現を確実に引き出すことができる。特に、揺るぎない低音再生を実現した背景には、共振対策と低重心化を徹底したディスクプレーヤーならではの余裕が存在することを確信した。
(山之内 正)