[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第147回】アイアン・メイデンとは、正義。 “メイデンヘッドホン” でメタルの名曲を聴きまくる!
▼Megadeth「Holy Wars… The Punishment Due」
1990年発売「Rust In Peace」に収録:ギタリストとしてマーティ・フリードマン氏、ドラマーとしてニック・メンザ氏が在籍する、メガデス黄金期と称されることも多いラインナップでの名曲。この次のアルバムからは楽曲の重みを重視し始めテンポや展開のめまぐるしさは控えられるので、「インテレクチュアル(知的)・スラッシュメタル」としては本作、この曲が天地爆裂級の最終兵器と言えるのではないだろうか。
そして、その展開のめまぐるしさ…というか強引さは、メイデンに通じるものがある。この企画の幕開けを飾るのにふさわしい。
<聴きどころ:00分00秒〜01分28秒>
エッジ、やべえッ! アタック、強えッ! 曲冒頭のこのリフを聴いただけで、このメイデンホンがディストーションギターのエッジや粒の荒さを強烈に引き出してくれることがわかった。そしてそのリフにユニゾンしてくるドラムスのスネアからのタム回しを聴いただけで、このメイデンホンがドラムスのアタックを強烈に引き出してくれることもわかった。
このテンポでのギターの刻みとドラムスの手数も全く拾い漏らさずクリアに届けて、というか、投げつけてきやがる。音像は全体に大柄だが音色と音場が明るめなおかげか、あまり窮屈にこもった感じはしない。その点でもいわゆる音数だとか情報量だとか言われる要素はハイレベル。こういった複雑なメタルとの相性はよさそうだ。
▼Angra「Carry On」
1994年発売「Angels Cry」に収録:現在はメガデスにも参加しているギタリストのキコ・ルーレイロ氏のホームバンド、アングラ衝撃のデビューアルバムからの名曲。これよりあとの作品では地元ブラジル色やプログレ色なども強めていくが、このデビュー時期はクラシック要素を取り入れたパワーメタルあるいはメロスピ(メロディックスピードメタル)という、当時の日本での人気ジャンルにドンピシャのサウンド。印象に残っている方も多いだろう。
<聴きどころ:03分58秒〜05分04秒>
最後のサビの繰り返し部分で最後の最後のサビの前にブレイクが入り、半音上に強引に転調する。日本的な表現で言えば「小室転調」だが、メタル的な表現で言えば「メイデン魂」と言えるだろう。ただでさえハイトーンなボーカルの音域が、さらにきつくなる。
なのだが、当時のボーカリストであるアンドレ・マトス氏はこんな高音でも実に伸びやか! ここでメイデンホンはボーカルの伸びや艶、透明感にも優れることを確認できた。メタルはディストーション、歪みを基盤とした音楽だ。しかしその歪みを基盤としてそれとの対比で、美しいボーカルやクリーントーン、ピアノなどを際立たせるのもメタルの基本手法。音の透明感まで表現できることはメタルホンとしての必須条件と言え、メイデンホンはそこを当然クリアしているわけだ。