【特別企画】往年のブランド名は伊達じゃない
復活の「Aurex」を聴く。第一弾“ハイレゾ対応CDラジオ”は入門層にもオーディオファンにもおすすめ
■ソリッドでダイレクト。ごまかしのない痛快なサウンド
「ビューティフル・スカーズ」をTY-AH1000で聞くと、演出や誇張を排した色付けのないソリッドな音質に心地よいショックを受けた。この演奏は荒々しさが身上でそれが鈍ってしまったら詰まらない。低音を作為的に増強するスピーカーではこの曲の醍醐味は逆に台無しになってしまう。
TY-AH1000では大型スピーカーシステムで再生した時の地響きのような轟音にはならないが、音離れがよく筐体が消えて、引き締まった音楽だけがそこにある。鮮度が高く切れ味抜群。素性がよくレスポンスの速いドライバーを高効率なアンプで最適駆動していることがわかる。
決して「癒し系」の美音ではない。辛口でダイレクト。スタジオで使われるモニタースピーカーやモニターヘッドフォンを彷彿させる、ごまかしのない痛快な音だ。
TY-AH1000の音量は最大40だが、MAXまで上げてみた。さすがに筐体が振動して発する音が楽音に混じり出すが、驚くことに歪みがほとんどなく、実用域にある。
次にMacBook ProとTY-AH1000をUSB接続し、ハイレゾファイルを聞いてみよう。ユンディ・リー(pf)のベートーヴェン「悲愴」(FLAC96kHz/24bit)第一楽章。速いパッセージの細かい装飾音を一音たりとておろそかにせず、TY-AH1000はリーのピアニズムを鮮明に浮かび上がらせる。リーらしい明るく澄明な音色を損なわず聴き手にそっくり伝える。
2ウェイというベーシックな構成と実直な設計でハイレゾ再生へ最大限の結果を引き出したのが本機だ。やはり帯域の広いトゥイーターの存在感が大きく、あえてそのキャラクターを丸めていないので、鋭さを感じることもしばしばあり、背後にエアボリュームを十分取った、余裕あるセッティングを心掛けるとよい。
■音の分かる大人にこそ聴いてもらいたい逸品
東芝エルイートレーディングはTY-AH1000を一般向けの音質のいいオーディオとして広く薦めたいようで、それはそれでお薦めしたいのだが、筆者はまた一方で別の感想も持った。
本機は正攻法の着想と技術から生まれたれっきとしたハイファイの正道商品だ。本格的なハイエンドシステムを持つ耳の肥えた上級者にも、本機に興味を持ってほしいのだ。「達人」なら、本機を通じてミュージシャンの曲の解釈や演奏テクニック、音色ニュアンスまでちゃんと聴き取るはず。日常のサブシステムとして「使える」存在になるに違いない。
TY-AH1000はただのポータブルではない。コンパクトなプレイバックリファレンスとしての大いなる可能性を秘めている。プロが愛用したブランド、オーレックスの名は伊達ではない。
(特別企画 協力:東芝エルイーレーディング)