[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第163回】イヤホン「ROSIE」「ANDROMEDA」でaikoの『ロージー』『アンドロメダ』を聴いてみた
■試聴の前に…今回のaiko「リマスタリング」「ハイレゾ」についてちょっと確認!
…ということで最初に確認。「リマスタリング」「ハイレゾ」という言葉が並んでいて実際の音に明らかな違いがある場合に、その主たる要因となっていることが多いのは、前者「リマスタリング」の方だ。「ハイレゾ」にも意義はあるが、リマスタリングでの変化と比べればそれほど大きなものではない。
イメージとしてはまず例として、大元にハイレゾマスターが存在する場合を想像してみてほしい。
A) マスタリング前ミックスダウン済み音源
X) ハイレゾマスタリング音源
X-) そのハイレゾをCDフォーマットにダウンコンバートしたもの
X--)それをさらにAACで圧縮したもの
これは単に、
X) ここ始点でダウンコンバート的に落としていくので…
X-) ハイレゾよりも少し情報量が損なわれる
X--)それよりもさらに少し情報量が損なわれる
という感じで、マスター音源への忠実性について言えばシンプルなX>X->X--の関係に過ぎない。忠実な音と好ましい音が常に一致するわけでもないが。対してリマスタリングの場合は、
A)マスタリング前ミックスダウン済み音源
X)当時のマスタリング
Y)新たなリマスタリング
といった感じの表現の方が適当だろうか。この場合の特にXとYの関係は「X>Y」や「X<Y」ではなく「X≠Y」と不等号で表すのが、一般論としては妥当と思える。その不等号の度合い、違いの大きさは様々だが。そしてその違いの理由としては、
・時代による機材とエンジニアリング技術の進化
・時代によるマスタリング傾向の変化
・リマスタリング企画の意図
・アーティストや担当エンジニアの意図や意向
などなど、やはり様々なことが考えられるわけだ。
そんなところを踏まえた上で今回のaikoさんのリマスタリングハイレゾだが、まず「夏服」(「ロージー」を収録するアルバム)全体を当時のCDの音源と比べてみると、音作りが極端に変わっていたりはしない。これは当時のマスタリングが実に真っ当であり、方向性自体を大幅に変える必要はなかったからだろう。その上でそれから時を経て微調整を行える機会を経て、その仕上がりをさらによくしたのが今回のリマスタリングという印象だ。先ほどの表現で言えば好い意味で「X'」的な感じ。
その微調整が特にわかりやすい曲としては「be master of life」を挙げておく。アップテンポのロックなポップスだ。全体の音量は少し控えられ、またギターの歪みはエッジを少し穏やかにして厚みの方を引き出した印象。音圧的には少し下がるのでアンプのボリュームを少し上げてオリジナルCDと似た音量で聴こえるように調整すると、その違いやその違いの意図が見えやすい。
エッジの穏やかさのおかげで、音量を少し上げてもきつい音にはならないこともポイントだ。すると例えばドラムスの奥行き、その周囲の空間の余白といった要素がより豊かになり、立体感が高まっていると感じられる。
その曲ほどわかりやすくはないが、「ロージー」も傾向としてはそういった変化。オリジナルマスタリングを聴き込んだ方でもまずは違和感なく聴け、その上でさらに聴き込めばリマスタリングの上質さに気付けるであろう、巧みなリマスタリングだ。
「アンドロメダ」にも極端な変化はなく、微調整の内容も「夏服」と統一感がある。オリジナルマスタリングよりもドラムスやベースの太さや暴れを少し整えた様子だ。リズムセクションの音作りのニュアンスがオリジナルではロックとポップスで6対4だったところ、このリマスタリングでは5対5にしたような雰囲気というか。
ということで今回のリマスタリングについては…好印象!