【特別企画】Sound Reality Sereiesの新モデルを聴く
海上 忍が聴くオーディオテクニカ「ATH-DSR9BT」。有線をも凌ぐ描写力!Bluetoothヘッドホンの概念が変わる
試聴に利用した曲は、宇多田ヒカルの新曲「花束を君に」(FLAC 96kHz/24bit)とNorah Jones「Nightingale」(FLAC 192kHz/24bit)、そしてDaft Punk「Get Lucky」(FLAC 88.2kHz/24bit)の3曲。プレーヤーにはソフトウェアアップデートを実施したAstell&KernのAK300を使用、まずはワイヤレスではベストコンディションとなるaptX HD(48kHz/24bitにダウンコンバート)で再生した。
最初の「花束を君に」は、イントロからいきなり心を奪われる。ボーカルの定位は明瞭で距離感・音場感がリアル。伴奏のピアノも一音一音の描写が細かく、鍵盤のダンパーが弦から離れる際の余韻まで伝わるかのよう。最初のサビの直前に入る吐息も、その奥行きを感じるほど生々しい。
アコースティックギターの音から入る「Nightingale」は、その胴鳴り感まで丁寧に描写されることに驚嘆。Norahのハスキーな声も、ただ聴こえるのではなく臨場感・空気感を伴い耳に迫る。間奏のピアノとギターの音が交互に鳴る部分でも、ドライバの応答性能ゆえか音像がぼやけない。筆者はふだんこの曲をCD/SACD両方で聴くが、印象は断然後者に近い。
「Get Lucky」では、左右のセパレーションに刮目。DnoteではL/Rが完全に独立しており、バランス接続と似た効果を発揮するからか、ギターやスネアなど各パートの位置が目に浮かぶよう。曲を通して聞こえる電子ピアノも、アカペラ部分の手拍子も、残響音がごく自然に消えていく様が心地いい。
この3曲をiPhone 7(コーデックはAAC)でも再生してみたが、左右のセパレーションや立ち上がり/立ち下りの速さという基本特性の印象は大きく変わらないものの、音の消え際・余韻はだいぶ簡素で淡泊に感じられてしまう。音場が狭まり平坦になる傾向も否めず、16bitと24bitの情報量の差がもたらす効果に改めて気付いた次第だ。
「ピュア・デジタル・ドライブ」と「φ45mm“トゥルー・モーション” D/Aドライバー」がもたらす機敏な反応と卓越したセパレーション、そして24bitの情報量を持つコーデック「aptX HD」。そのコンビネーションにくわえ、世界初のフルデジタル伝送ヘッドホン「ATH-DN1000USB」で培ったノウハウ、さらには純鉄一体型ヨークやDLCコーティングといった熟成の技術が惜しげもなく投入されている。そのような背景を持つATH-DR9BTという製品は、Bluetoothヘッドホンに対する既成概念を一新するとともに、ワイヤレス新時代到来を告げる存在といえるだろう。