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高い技術力が豊かな音楽性に結実

マランツ「SA-10」の “ディスクリートDAC” は何が画期的なのか? 角田郁雄が徹底解説

公開日 2016/12/01 11:22 角田郁雄
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D/A変換の歴史に深く関わるマランツだから、SA-10は実現できた

さて、SA-10の詳細を紹介しよう。このモデルは、PCMのハイレゾUSB入力、外部デジタル入力も全て11.2MHz DSD(元信号が44.1kHz系の場合。48kHz系の場合は12.3MHz)に変換することが大きな特徴である。前述のように、ディスクリート構成のΔΣ1bitDACを搭載している。

マランツは、ΔΣ1bitDACの特性やアナログ的な音の再現性を大切にしている。なぜならCDの登場直前の1980年から約20年間フィリップルグループ傘下であった時期があり、フィリップスの開発した半導体ΔΣ1bitDAC「DAC7」を、LHH700というフィリップスブランドのCDプレーヤーに搭載し、製造していた時期もあり、その特性を良く理解していたからだ。

SA-10の筐体内部

このDAC7はすでに製造中止になり、マランツは以降、バー・ブラウンのDSD1792Aやシーラス・ロジックのCS4398など1bit系のDACチップを採用してきた。しかし、半導体DACチップの使い方や特性などの拘束を受けない独自の理想のD/A変換を求め、今回、ディスクリート構成ΔΣ1bitDACシステム「Marantz Musical Mastering」(以下:MMM)を実現したのである。

私は内部を観察し、その精密感に溢れたレイアウトに感激した。フロントパネルを手前にすると、センターにディスクメカエンジン「SACDM-3」が配置されている。SACDの高速回転でも高精度読み取りが十分できるよう、メカエンジンは振動でもぶれないアルミダ押し出し製のベースに設置される。

リアの銅メッキされたシールド板の下には、外部デジタル入力、11.2MHzDSD対応のUSB入力を含めたデジタル処理部(デジタル入出力と処理部)とコア技術であるMMMを一体化したデジタル基板を配置。右側・縦一列に配置されたD/A変換を含めるアナログ基板に影響を及ぼさず、伝送距離を最短にした配置である。

MMM-StreamingでオーバーサンプリングやΔΣ変調処理を行う

MMMは、「MMM-Stream」と「MMM-Conversion」に別れているが、前者が、このデジタル基板上にある。その役割は、L/R独立の2基のDSPと、1基のCPLD(FPGAよりも規模が小さく、アルゴリズムで独自の半導体のように動作する)が連携し、全てのPCMを11.2MHzまたは12.3MHzでオーバーサンプリングし、ΔΣ変調によって「1」「0」の1bit信号化を行いDSDに変換して、PCMをパルス波化(疎密波化)する。

SA-10のデジタルオーディオ基板。右下部にMMM-Streamを含む

この過程において、同時に2種の自然な立ち上がりを再現するデジタルフィルター処理や、可聴帯域内のノイズを低減する3次・4次の2種のノイズシェーパー、高域ノイズを低減するレゾネーター、3種のディザー処理が行われる(ディザー処理とは、ランダム擬似信号を重畳させ、微小レベルの変換特性を高めることだ)。

MMM-Stream

これらは本来、24通りの組み合わせが可能になるが、設定では効果的なデジタルフィルター2種と3次・4次ノイズシェーパーが選択でき、それぞれディザー1/2/無しとの組み合わせを可能にしている。SA-10が好みの音質が探れるところにも、私は好感をもった。

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