金属の強靭さとガラスの硬度を両立
“リキッドメタル”に筐体を一新!Campfire Audioの第二世代モデル3機種一斉レビュー
それでは、試聴へと移ろう。まず最初にここ!と述べておきたいポイントは、その音色のしなやかさやほぐれだ。技術面で「硬度」を繰り返し強調したので、その音も良質な硬質さ、シャープネスが持ち味なのかなと想像した方もいらっしゃるかもしれない。しかし実際に聴いた印象は逆だ。
例えば相対性理論『たまたまニュータウン (2DK session)』のハイハットシンバルは、シャープな音調のイヤホンでは本当にシャープな音色で表現される。しかしVEGAから聴こえてくるその音色の感触で印象的なのは、前述した“しなやかさ”であり“ほぐれ”だ。濃い粒子感、肉感とも言える厚み、そういったものも備えている。だからといって音像がぼやけるわけでもない。
そしてもちろん、そのようなレベルのしなやかさやほぐれを備えることは、女性ボーカルの表現において大きな優位となる。やくしまるえつこさんが子音を意図的に強めに出す場面でも、それをしっかり強めに出して歌の意図は生かしつつ、耳に刺さる音にはしない。音楽的な高域表現だ。
歌といえばQ-MHz feat. 小松未可子さん『ふれてよ』では、小松さんの声の低音の響きを豊かに再現してくれる。その低音が再現されてもされなくても魅力的だが、この曲ではその声の深みの部分に歌の感情を乗せている箇所も少なくない。それが届いてくるのは嬉しいことだ。低音というと、ベースやバスドラムなど低音楽器に意識が行きがちだが、良質な低域再生能力はボーカルの魅力も引き出してくれる。VEGAの低域もそれに当たる。
しかし、この曲においてはベースも歌と並ぶ二本柱の一つだ。VEGAはそのベースをほどよく大柄に、くっきりさせすぎず、ぼやけることもなく自然な存在感で描き出してくれる。低域再生能力に余裕があるからこそ出せる感触だろう。その余裕感がこの曲では特に際立つ。
思い詰めた言葉になる瞬間もあるが、そこで悩みすぎず踏み出していくのがこの曲のテーマだ。ベースに限らずだが、イヤホン側の能力の頭打ちによって音の表現が詰まってしまうと、聴こえてくる音がそのテーマにそぐわなくなってしまうこともある。VEGAはそんなことがないどころか、改めて楽曲のテーマを強く届けてくれた。
ただ、低域周りではベースのフレーズの音域であるとか音色の重心によっては、ベースの音像が少し膨らみすぎる場合もあった。例えばglobe『DEPARTURES(Remode 2 Ver.)』のベースだ。だが同じくヒップホップ的リズムのRobert Glasper Experiment『I Stand Alone』のベースは、こちらの期待通りに鳴らしてくれた。
VEGAにおいて低域周りは曲との相性の出やすいかもしれない。これに対して、相性の良し悪しが少なく、良質な低域を安定して出してくれるのは次に紹介する「LYRA II」だ。
次ページベリリウムコーティング振動板を搭載した初代「LYRA」の後継機