[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第176回】Astell&Kern×JH Audioコラボの“末っ娘”「Michelle」をじっくりレビュー!
■Michelleでも鍵は「freqphaseテクノロジー」
Michelleは、BAマルチドライバー機として基本中の基本と言えるシンプルなドライバー構成の、低域×1・中域×1・高域×1基という3ウェイ3ドライバー構成を採用している。
前述のように、JH「THE SIREN SERIES」はこれまで超多ドライバーモデルを展開している。マルチウェイ構成には各帯域ごとの位相のズレをいかに整えるかという課題が常に付きまとう。超多ドライバーとなると、そこに上乗せで各ドライバーごとの個体差も考慮しなければならないし、位相調整のためにドライバーの配置を調整するにも、シェルの中に12基とかのドライバーを詰め込むので「その限られたスペース内で」という難しい条件まで加わる。
これまでのTHE SIREN SERIESの凄さはそこをクリアしていたことなのだが、Michelleは3ウェイ3ドライバー。前の段落の「超多ドライバーとなると〜」以降の厄介な要素はなくなる。となると、超多ドライバー機でさえも位相を揃えることに成功しているJHの技術ノウハウをシンプルな3ウェイ3ドライバーに注ぎ込んだら一体どうなるのか?正にそれを具現化したモデルがMichelleだ。
そこで重要な技術ノウハウというのが「freqphaseテクノロジー」である。公式解説を引用すると、「多数のドライバー構成での時間軸と各帯域の位相を正確に制御する特許技術です。独自のチューブウェイブガイドにより各ドライバーの信号を0.01ミリ秒以内に確実に到達」とのこと。
……いや、そう言われましても何のことやらという方もいらっしゃるかと思うので補足しよう。全帯域まとめて一つの電気信号としてイヤホンに届いてきた音声信号を、ネットワーク回路で各帯域ごとの音声信号に分割し、それぞれの帯域専用のドライバーに送り込んで再生するのがマルチウェイドライバー構成のイヤホンだ。
しかし、ネットワーク回路での分割に伴い生じるのが各帯域ごとの位相のズレ。ざっくり言うと、多くの場合で低域側の信号に僅かな遅延が生じる。その電気信号時点でのズレをアコースティックな出力以降で補正するのが「freqphaseテクノロジー」だ。
YouTubeで公開されている、JH=ジェリー・ハービー氏ご本人による解説ビデオ(FreqPhase)が分かりやすいだろう。英語だが、映像だけでも何となく理屈はわかるかと思う。
内容をごくごく単純化すれば、「低域や中域のドライバーからノズルの出口までの音導管は短めにして、対して高域の音導管は長めにすれば、電気的な領域での低域側の遅れを物理的な距離の短さで相殺できるよね」という話だ。JHのイヤホンはノズルあるいはステムと呼ばれる部分の長さが特徴的だが、それは高域の音導管を長くする必要性からなのかもしれない。
「Michelle」の場合、中域と低域のドライバーはワンボックスに一体化されており、おそらくはそのボックスの時点で位相管理もされているのだろう、音導管は中低域と高域の二系統でその長さがそれぞれ異なる。
また「中域用ドライバーは10Hzから5kHzまで限りなくフラットなサウンドを提供」とのこと。かなり広い帯域を中域用ドライバーでカバーしていることもポイントかもしれない。