<山本敦のAV進化論 第123回>
アプリと一緒に進化するイヤホン − パイオニア「RAYZ」速攻レビュー
■省電力性能をテストしてみた
最新世代の「LAM2」を搭載したことによる省電力効果がどれぐらい表れるのか、筆者も手元で実験してみた。iPhone 7にRAYZ PLUSのほか、Lightning版EarPodsと、iPhone 7に付属するLightning-3.5mmヘッドホンジャックの変換アダプターにイヤホンを接続した3つの環境を用意。バックグラウンドのアプリを落とした状態で、ノイズキャンセリング機能はオンにし、それぞれに10分間同じ楽曲を再生した時のバッテリーの減り具合を比べた。
結果、EarPodsと変換アダプターで聴いた場合はそれぞれにゲージが2〜3%の間で減ったが、RAYZ PLUSの場合は数値の動きがなかった。確かに体感できるほどの省電効果がある。
■音を聴いてみる
肝心の音質もチェックしてみよう。はじめにモバイルストリーミング環境でApple Musicのライブラリを聴き比べた。飯島真理『ゴールデン☆ベスト〜ビクター・イヤーズ』から「天使の絵の具(Live)」では、滑らかにつながる音楽がゆっくりとしみこんでくるような感覚だ。ボーカルはふくよかで張りもよく、艶っぽい印象を与えてくれる。
高域は無理に出そうとはせず、きつく刺さって聴こえそうになる成分をうまく抑えている。低音のビートは厚みがあって重心も低い。ライブ演奏の熱気を伝えてくれる。聴き始めの頃は響きがやや硬いようにも感じられたが、鳴らし込むほどに柔らかさが増して、空間に広がりが生まれてきた。
スヌープ・ドッグの『COOLAID』から「Two or More」でも、やはりスムーズにつながるバランスの良いサウンドが好印象だ。ボーカルやコーラスはしっかり前に押し出してくるのに、重量感のあるベースや高域の電子音と一体感を崩すことなく音楽全体の迫力をぶつけてくる。ノイズキャンセリング効果が高いので、静かな場所ならボリュームゲージを4〜5割、アウトドアで使っても6割ぐらいのポジションに設定すれば十分な力強さが感じられた。
ハイレゾ音源はHF Playerでチェックした。映画『シン・ゴジラ』のサウンドトラック『シン・ゴジラ劇伴音楽集』から「Who will know (24_bigslow)/悲劇」ではソプラノの声が柔らかくしっとりと広がる。管弦楽器のハーモニーが厚く重なり、打楽器がどっしりと重心の低い低音を響かせる。劇中でゴジラが最もハイライトされるシーンの恐怖を呼び起こす重厚なオーケストラだ。ソプラノの主旋律を立たせたり、空間の立体感を少し強調したい場合はイコライザーを使って好みの設定に追い込める。
RAYZのサウンドは自然体でフラットなバランスが持ち味だ。ノイズキャンセリングの効果だけでなく、音のバランスも長時間リスニング時の疲れにくさを重視しながらチューニングされているように感じる。「JBL Reflect Aware」の中低域の厚み、ラディウス「HP-NHL21」の精悍な解像感とはまたひと味違うサウンドキャラクターを持つイヤホンが現れた。
■アプリと一緒に進化するイヤホン
RAYZは音質、機能ともに抜群のコストパフォーマンスを実感できるイヤホンだ。ユーザーにとっては、購入後もRAYZアプリのアップデートで新機能が追加される魅力も大きい。高精度なLightXのプラットフォームを搭載した、iPhoneにアプリとの組み合わせで楽しめるイヤホン以外のオーディオ製品が、今後パイオニアやオンキヨーブランドから続々と出てくることに期待したい。
iPhoneによる音楽リスニングは、昨年末に発売された「AirPods」をはじめ、Bluetoothワイヤレスイヤホン・ヘッドホンとの組み合わせが最先端と思われがちだが、Lightningイヤホンも、ワイヤード接続で音質向上が図れたり、充電やペアリングの手間がかからないなど、いくつも優位性を持っている。ワイヤレス伝送時に音声信号が遅延したり途切れたりする心配もないので、iPhoneで動画やゲームを楽しむ際に有利だ。
一方でこれはLAM2の設計に関わる部分だが、最新のLAM2のようにDACやアンプも統合されるのが今後の標準になるのであれば、ラディウス「HP-NHL21」のように、高精度なDACを選んで音質で差異化を図るといった手法が取りにくくなるのかもしれない。
もともとLightningイヤホンの音質は、DACの特性に大きく左右される部分があるとも言われている。LAM2を従来通りインターフェースとしてのみ使い、アンプやDACにチップを組み合わせられる自由度があるのかなど、今後の動向にも要注目だ。ともあれ、これからのiPhoneによる音楽リスニングをいっそう楽しくしてくれそうな新製品の誕生を歓迎したい。
(山本 敦)