HOME > レビュー > マランツ「PM-10」を聴く。800 D3も鳴らし切る、一体型の枠を超えた新旗艦アンプ

高性能スイッチングアンプ採用で実現したセパレートアンプの一体化

マランツ「PM-10」を聴く。800 D3も鳴らし切る、一体型の枠を超えた新旗艦アンプ

公開日 2017/02/23 10:23 角田郁雄
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
このスイッチングアンプを支える電源は、筐体右側にL/R個別配置された前述のスイッチング電源である。この電源はHypexが同社のスイッチングアンプモジュールのために用意しているもので、Ncoreの高速応答、弱音から強音までのダイナミックレンジが高い瞬時出力に不可欠な存在である。

PM-10に搭載されたスイッチング電源

このスイッチングアンプがノイズ源とならないように、銅メッキシャーシに取り付けられ、電磁波の飛びつきを防ぐために硅素銅板によるカバーも取り付けている。フェライトコアやチョークコイルもふんだんに使用し、各回路間にも厳重なシールド板を使用して、電源由来のノイズの影響を排除している。

B&W「800 D3」を鳴らし切る駆動力を目の当たりにした

こうした回路を見ていると、私のオーディオマインドは掻き立てられ、胸が高鳴ってくる。それほどに魅力的な技術なのである。PM-10を最初に聴いたのはマランツの開発用リスニングルームで、SA-10と組み合わせだったのだが、現時点で世界最高峰のスタジオモニターであるB&W「800 D3」がドライブされる音を体験することとなった。

Marantzのリスニングルームでは、SA-10およびB&W「800 D3」と組み合わせて試聴を行った

ここで私は、ダブルウーファーを搭載する800 D3をストレスなく、スムーズにドライブできる制動力の高さを見せつけられた。スピーカーの背後にパワーアンプが隠されているのではないかと思うほど、開放的に朗々と鳴らしきっていることには驚かされた。

ダンピングファクター 500を誇る低インピーダンス、高速レスポンス特性はまさにその音に現れていて、私がいつも気にかけている空間再現性も高く、ステージに音を濁さず、奏者や歌い手の輪郭を明瞭に、そして生々しく再現してくれる。こうした表現が可能なのは、歪み特性にも優れているからだ。

音調としてはわずかにアナログ的なウォームな質感を備え、CDやSACD、ハイレゾからLPまで、どんなソースを再生しても柔らかな質感を示す。そして、格別に豊富な倍音を放つ。この倍音は、直熱三極管の「300B」や「211」を彷彿とさせるほど透明度も高い。

アナログレコードを聴くような緻密で豊潤な質感再現

今回は、音元出版の試聴室でも音質を探ったのだが、ヴァイオリン、チェロ、コントラバスなど弦楽の響きを決して硬くドライな質感にせず、音数の多い豊潤な音で再現してくれた。

音元出版の試聴室では、TAD「TAD-E1」と組み合わせてチェックした

ジャズ・ファンやワーグナーの愛好家が気にする金管楽器やドラムスのシンバルの響きは、アナログレコードの質感に迫るほど緻密で、金属らしさを鮮明にする。アグレッシブなマイルス・デイビスのトランペットやワーグナーのマッシブなブラス群において、俊敏な音の立ち上がりを示し、そのレンジ感に溢れた音ゆえにオーディオを聴いていることを忘れて、なんだか高揚した気分になってくる。

マーラーの交響曲第2番において、ゴロゴロと響くバス・ティンパニーの低音を、透明度や解像度を失わずに音の輪郭を明瞭にしているのは特筆すべきこと。PM-10がいかにダイナミックレンジの広いアンプであるか理解できる。

次ページインテグレーテッドアンプという概念を超えた存在

前へ 1 2 3 4 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE