海上忍のラズパイ・オーディオ通信(25)
【特別編】「ワンボードオーディオ・コンソーシアム」設立。発案者・海上忍が語る趣旨と今後の活動
■コンポーネント規格の着想に至るまで
しかし、また新たな心配事が生まれました。せっかく「互換ケース」を実現するのだから、ある程度世間に周知させるべきだ、と。類似品が出たとなれば(いちユーザーとしてはむしろ歓迎です)サイズが異なるとユーザの混乱を招いてしまう…この問題を回避するには、統一規格を用意するしかありません。
統一規格のアイデアは、いわゆる“自作PC”に着想を得ています。ATXを例にとると、Intelが構造規格(フォームファクタ)を定義し、マザーボードやグラフィックボードのメーカーがその規格に沿った製品を作ることで、異なるメーカー間の製品でも接続/拡張できる環境が整ったという経緯があります。この世界観をラズパイ・オーディオに持ち込めればおもしろい、単純にそう考えたのです。
一方、その数ヶ月前にオーディオメーカーの開発者と情報交換した時、コンポーネントオーディオでのRaspberry Piを利用することの可能性が話題にのぼりました。海外では、Bryston「BDP-π Digital Player」のようにRaspberry Piの使用を公言した製品がすでに存在していたり、Raspberry Piを内蔵しているにも関わらずそれを謳っていない製品もあるそうです。
本邦オーディオメーカーの開発者がRaspberry Piに注目する理由はさまざまですが、「I2S(Inter-IC Sound)」の利用が比較的容易であることはその一つです。I2Sを外部接続用に使うというアイデアは、多くのオーディオメーカーが試み実用化も果たしていますが、自社製品間の接続というローカルルールに留まります。PS AudioがHDMIにI2S(LVDSに変換)を載せるという方法で、外部接続規格の汎用化を実現していますが、HDMIをそのような用途に利用していいものかどうか、ライセンス面での疑問は残ります。
Raspberry Piは、汎用入出力ポート(GPIO)で手軽にI2Sを扱えます。オーディオ機器内部にRaspberry Piを入れてしまえば、つまり「PCを内蔵」してオーディオデバイスを制御させれば、I2Sを駆使したシステムは不可能ではありません。そこに"自作PC"のエッセンスをくわえれば……新たな化学反応が生じるはずです。