[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第181回】高級ヘッドホンで聴く上坂すみれは“ココ”がすごい!注目コラボモデル予約締切直前企画
▼7th「恋する図形(cubic futurismo)」(2016年8月3日)
□曲の復習!
執筆時点での最新シングル。作詞作曲はいまや「おそ松さん」でおなじみの人力テクノ集団・TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(テクノボーイズ パルクラフト グリーンファンド……以下テクパル)。上坂さんとしては、テクパルの曲というと「トリニティセブン」ED曲「BEAUTIFUL≒SENTENCE」の印象が強いとのこと。ご自身が出演されていた作品ではないが「iTunes Storeか何かで見かけて聴いてみたらよかった」とのことだ。上坂さんが普段お聴きの曲からのリコメンドで表示されていたのかもしれない。
それは推測にすぎないが何にせよ、上坂さんのテクノ趣味の部分を制作チームが拾い上げたのがこの曲と言えるだろう。なお「キングレコード」レーベルからの初リリース曲でもある。スター!チャイルドよ!永遠に!
□音楽的なポイントは?
テクパルの曲は音楽的な構築が偏執狂的であり、それを形にするとなると必然的に録音以降にも偏執狂的に拘ることになる。結果として、オーディオファンからも評価されるサウンドクオリティとなっている音源も多い。この曲も、曲としての好みは同志諸君それぞれあるだろうが、そういった意味での音の良さが上坂すみれ作品としてトップクラスであることは、専門家の端くれの切れ端が道端に落ちている感じのライターとして力強く断言しておこう。
上坂さん作品としてこの曲が特に突出している部分としては空間表現、その構築の見事さを挙げておきたい。音の数はたくさんあるのだが、その音が広い空間のあちらこちらに適当に配置されており、音が詰め込まれている感は全くない。音の情報量は多いのに全体の空間には余裕さえ感じられる。しかしその表現の土台というか、背景となる「広がり」の最大値は、それを再生するヘッドホンに依存する部分も大きい。ダメホンではこの曲の空間構築の全ては堪能できないのだ。そこ大切!あとエレタムな!トクトゥン♪の感触も超堪能したい!
□コラパケ高級ヘッドホンで聴いてみた!
さて、「空間の広がり」については前述のように、このヘッドホンが得意とするところではない。「ポータブルサイズの密閉型ヘッドホン」という枠の中ではハイレベルではあるのだが、この音源のポテンシャルを全て引き出せるレベルには達していない。そこは正直にお伝えしておこう。
しかし「ポータブルサイズの密閉型」でないことには、外出時には邪魔だし音漏れするしで使いものにならない。その枠内では十分に優秀なこのモデルに対して不足を感じるのであれば、もう外で使うのは諦めて大型で開放型な超ハイエンドヘッドホンに行くしかなくなってしまう。それはさすがに……だろう。そもそもこのモデル、このパッケージじゃないと「上坂さんと同じ!」という肝心な要素がなくなってしまうではないか。
もちろんだが、スマホ付属イヤホンとかと比べたらこのモデルの空間表現も雲泥の雲の方のレベル。付属イヤホンでは気付けなかった音や仕掛けに気付けるのではないだろうか。サビ前の「テロリロン♪」的なキメフレーズが、フレーズ自体はシンプルだけれど音の重ねや配置は凝りまくったものであることとか。
というわけで全曲完遂!上記ポイントを手持ちのイヤホンやヘッドホンで確認してみていただき「うちのイヤホンだとそこ伝わってきてないなあ……」という箇所が散見されるようであれば、今回のコラパケモデルの導入でその大幅改善を見込めるはずだ。
お気付きになった方もいるかと思うが、今回あえて、上坂すみれさんの歌、ボーカルそのものについてはほとんど触れていない。それには、どの曲でもボーカル表現がまずい場面はなかったのであえて触れるまでもなしということもあるが、意図したところはもう一つある。
上坂すみれさんの曲の主役は、もちろん上坂すみれさんだ。しかし例えば上坂さんのラジオにゲストが来てくれていることを想像してみてほしい。上坂さんは一人しゃべりも面白い。しかしゲストを招いてのトークなのにゲストのマイクが不調で声が聞き取りにくく、上坂さんの話だけを聴くことになったら、そのトーク本来の面白さを感じられるだろうか。
音楽におけるボーカルとその他の関係もそれに似る。その曲における上坂すみれさんの歌の魅力は、他の楽器との関係性までも含めてこそ最大に発揮されるのだ。なので楽器の音もしっかり届けてくれるヘッドホンこそ、上坂さんの歌の魅力もしっかり届けてくれるヘッドホンなのだと、そこは強くお伝えしたい。そして今回のコラボはそれを満たしてくれている。
聴き返して改めて、記事序盤で述べた「『上坂すみれといえば何々!』みたいな固定された音楽スタイルは存在しない。だからこそ同志諸君は上坂さんの作品を追っていくだけで自然と、様々なスタイルの音楽、サウンドに接することができるのだ」をさらに実感できた。
上坂すみれを追っていればロシアを筆頭に、我々がこれまで触れる機会のなかった様々な趣味の世界を垣間見ることができる。上坂すみれという存在は趣味の媒介者でもあり、音楽においてもやはりそうなのだ。
そしてそのサウンドを良い再生環境で聴くことでの、さらに新たな発見もある。上坂すみれさんを媒介としての個人の趣味の拡張。そういった観点からも今回の記事を眺めてみていただければと思う。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
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