【特別企画】鈴木 裕が製品をレビュー
イヤホンに「真の静寂」をもたらすアクセサリー − iFI-Audio「IEMatch」を試す
どれくらい上げられないかと言うと、ボリュームのツマミの位置としては時計盤で午前7時あたりが最少だが(本来は無音状態。ただし、何も再生していなくてもヒスノイズ自体は盛大にしている)、そこから実際にナレーションなどを再生して編集作業をする時でも9時くらいまでしかボリュームが上げられず、左右チャンネルの音量のバランスが取れていなかったり、あるいはヒスノイズがうるさくて聴き疲れのする音だった。
特に自分が所有しているインイヤーモニター、シュアの「SE535SE」。感度が119dB SPL/mWで、インピーダンス36Ωだが、この感度ゆえに8時半程度までしかボリュームが上げられなかったし、盛大なヒスノイズに悩まされてきた。まさに破滅的問題だったのだ。
恥をさらすようだが、放送局の編集用の端末PCの周囲は意外と騒がしい。端末が並んだ編集室では、ディレクターとADが打ち合わせしていたり、大きな声で電話をしている人もいるし、スタジオに併設された端末では収録している音がモニタースピーカーから出ている。
そういう状況なので、遮音性能が高くて音の状態を正確に把握できるシュアを使いたいのだ。しかし、ボリュームが上げられない/ヒスノイズといった問題から使えなかった。
そんなところにiEMatchが登場した。基本的な説明を読んですぐに購入。使ってみて素晴らしく快適だった。上記の3番目の機能は使っていないが、ボリュームが上げられる点とヒスノイズを除去する機能に関してはおおいに満足している。
■iEMatchで高音質化につながるポイントとは?
各機能をもっと掘り下げていこう。まず、ボリュームが上げられるということについて。
iFI-Audioはこう説明する。「たとえば、音源が114dBのダイナミックレンジを持ち、ヘッドホンの音が30dB分大きすぎる場合、ボリュームを30dB下げると、ダイナミックレンジは84dBにまで」下がってしまう。
ヘッドホンアンプ自体にも多かれ少なかれノイズフロアがあるわけだが、ボリュームを下げれば下げるほど、サウンドとノイズの割合、つまりSN比が悪くなる。これを解決するひとつの手段がヘッドホンアンプの出力にアッテネーターを入れてボリューム自体を上げられるようにする解決策。というわけでこの機能をiEMatchが持っている。
余談だが、iFI-Audioのヘッドホンアンプ搭載USB-DAC、たとえば「micro iDSD」やその最新型である「micro iDSD BL」にはiEMatchの機能を持たせている(と言うか、先に搭載していた機能を単体として独立させたのがこの製品という言い方もできる)。
切り換える段階は、これらに内蔵されたiEMatchではOFF/High Sensitivity/Urtra Sencitivityの3段階。ここで紹介している単体iEMatchでは、High Sensitivity/Urtra Sensitivityの2段階という違い。
また、もうひとつ音を良くする要素として、特にトランジスタのアンプはある程度ボリュームを上げて鳴らしている状態のほうが音が生き生きしてくるという経験則もある。これの要素も少なくないと感じる。ボリュームのギャングエラーの要素やSN感もあるが、アンプが伸び伸びと作動しているように感じる。
一方、ヒスノイズの除去の効果も大きい。
このことについてiFI-Audioはほとんど何も説明していないのだが、実際にいろいろな音源や様々なヘッドホンアンプ(をはじめとするコンポーネント)に試してみて、特にヘッドホンアンプ自体にノイズの多いものに対しては積極的にそれを除去している、としか思えないように聞こえる。それくらい効果的にヒスノイズを除去しているし、iEMatchによってもたらされる“ヒスノイズのない感じ”に若干人工的な静粛性も感じられるからだ。
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