【特別企画】鈴木 裕が製品をレビュー
イヤホンに「真の静寂」をもたらすアクセサリー − iFI-Audio「IEMatch」を試す
個人的な推測だが、ヒスノイズ成分に対して逆相の信号を発生させて打ち消しているようなことをやっているのかもしれない。ある帯域以上にフィルターをかけるというやり方ではこんな効果はもたらされないだろう。また、たとえばハイレゾの音源でバイオリンの高域を再生したものを聴いてみてもハイカットされている感じがないからだ。
このあたりの技術についてはiFI-Audio側からはまったく説明されていないが、コピー商品対策かもしれない。あるいは同社の他の技術、たとえばヘッドホン再生においての音場感を補正する「3D」といった技術も、アナログ領域でやっているという説明のみで具体的なことは何も言っていないのを見るとある種の社風というか、開発/広報担当者の人間性に由来しているようにも感じている。
■iEMatchは具体的にどんなシーンで効果を発する?
iEMatchを試した中での具体例をいくつか挙げてみよう。
まず放送局の編集用端末の場合。PCのサウンドボードからのアナログ信号(RCA端子によるアンバランス伝送)がオーディオテクニカのヘッドホンアンプ「AT-HA2」に入っている。自分のシュアを接続すると、ボリュームつまみは時計の文字盤で8時半くらい。
そもそも上記のように、ボリュームを絞り切った状態でも盛大なヒスノイズが出ているのが、iEMatchをAT-HA2とシュアの間に入れることにより、このノイズ成分がほぼなくなり、ボリュームを上げられるようになる。Sensitivityは「Ultra」(超高感度用)にセットして、音源にもよるがボリュームの位置は10〜11時くらい。
音質をリポートすると、音の鮮度感は微妙に減少するが、アンプが生き生きと作動している感じになる。また、音像のボディ感が増し、帯域や音色感のムラがなくなる。トーン的には微妙にマイルドな方向にシフト。このおかげもあって聴き心地のいいトーンになるため、ボリュームは上がりがちだ。気持ち良く聴ける度合いは3倍くらいに増大している。
自宅で、筆者のMacbook ProとiFI-Audio「micro iDSD BL」を接続した場合。あえて、micro iDSD BL内蔵のiEMatch機能をOFFにし、なおかつパワーモードを3段階(ECO、NORMAL、TURBO)のうち、もっとも音量が大きくなる「TURBO」にしてみる。
本来は「超高感度のゼンハイザーIE800から、パワーを貪欲に要求するHiFiManのHE-6に至るまで、パワーとゲインを完璧に合わせることができる」という、最大出力-8v/4000mwのモードだ。
音楽を再生せずにまずノイズだけを聴いてみると、SN比の性能のいいmicro iDSD BLでもさすがにヒスノイズが聴こえているが、micro iDSD側のモードはそのままにして、今回紹介している単体のiEMatchをシュアとの間に挿入。ヒスノイズが聴こえなくなる。ボリュームの位置はさすがに9時くらいまでしか上げられないが、こういう極端な例でも対応できるということがわかる。
ちょっと面白いと思ったのはスマホに使ったときだ。筆者が現在使っているのは富士通の「ARROWS NX F-02G」だが、スマホで音楽を聴く場合はそもそもスマホ自体の出力がそれほど大きくなく、ポップスを聴く時はシュアSE535SEでもボリュームの半分弱くらいまでいっている。
これがiEMatchを入れることによりボリュームがさらに上がり、サーといったノイズ成分はもともと聴こえていなかったもののSN感が向上。iEMatch自体の、いい意味で若干マイルドなトーンもあって、聴き疲れしない音になった点だ。バッテリーの消費率としては上がってしまうのかもしれないが、これはアリだと思った。
ちなみに、iEMatchのボディ本体に使われている材質はアルミニウムとマグネシウムの合金。非磁性体であり、オーディオ的に悪さをするミクロ単位の振動コントロールに役立っている。使っている短いケーブルの部分は6N銅に銀コートしてある導体のようで、こうした素材の素性の良さも音質的にプラスを与えているように思う。本体の梨子地仕上げのボディの造りも良く、きちんとした製品に感じる。
使っているヘッドホンアンプの出力が大きく、ボリュームが上げられない人、ヒスノイズが気になる人には必要だろう。自分と同じように困ってきた人も多いと思う。そこまでじゃない人でも、この文章に書かれている何かにピンと来た人には試してほしい。特に、トランジスタのアンプはある程度ボリュームが上がった方が生き生きと作動する、というのにあてはまる人は少なくないはずだ。
(鈴木 裕)