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エキサイティングなエナジャイザー(1) ― iFI Audio「Pro iESL」テクニカルノート
■巻き − それは「トランスの声」
優れたダイナミクスと正しい音を持ったトランスを作るには、優良なコアが鍵となりますが、巻きにも同様に注意しなければなりません。多くの制限があるので、広帯域で低歪みのトランスを作るのは大きなチャンレンジになります。巻き方がトランスの帯域幅を決定づけます。オーディオ用トランスの巻きは、低域のカットオフ、低域の歪み、高域のカットオフの間でどこに妥協点を見出すかというのが典型的なパターンです。
これら3つの要素は、3つのうちの「どれか2つを選ぶ」という古典的な方法でまとめられていく傾向があります。とりわけ、古典的な「レイヤード(多層基板)」構造を持つトランスにはこれが当てはまります。トランスは、20kHzを超えるか超えないかのあたりで高域がカットオフされ(-3dB)、20Hzを超えるか超えないかのあたりで低域がカットオフされることが多いのです。
こういったトランスを使用したエナジャイザーは、トップエンドが聴こえづらく、低域が十分に出ていないように感じられる傾向があります。低域がカットオフされ、可聴帯域の位相が極端にずれるからです。最低限、守らなければならない仕様として、私たちは10Hz〜40kHzで-3dBという数値を目標にしました。これは、JAS(日本オーディオ協会)の「ハイレゾ」ロゴを使用する際の要件なのです(私たちは全製品にこのロゴをつけることができるように努力しています)。
こういったパフォーマンスを実現するために、Pro iESLでは、「どれか2つを選ぶ」という限界を回避すべく、めったに使われない技術が採用されています。
鍵となるのは、「Scheibenwicklung」(円板巻き)という方式です。
この「Scheibenwicklung」もまたきわめて古くからある技術で、1953年1月5日にドイツの特許DE861406 Cがジーメンス社に対して発行されています(ファイリングの日付は1943年5月14日)。
もっとずっと一般的な「レイヤード」の巻き方では、幅広い帯域を確保できません。
私たちのエナジャイザーに使用されているトランスは、「Scheibenwicklung」と「レイヤード」の巻き方を組み合わせている点において、独自のものとなっています。間に層を挟む複雑なパターンで、これによってそれぞれの技術が持つ能力をかなりの程度超える結果を得ているのです。こういったトランスの設計は、ほとんど絶滅した技術なので、記述されたものはほぼ皆無で(印刷されたものなど、考えることもできません)、ノウハウを知っている人もほとんどいません。こういった設計を実際に製造に移すとなると、それは一般のトランスよりもずっと困難な、大変な任務となるのです。
私たちのトランスは、ジーメンス社(ドイツ)とピアレス・トランスフォーマー社(アメリカ)が打ち立てた基準に対抗できるばかりか、それを超えてもいます。5Hz〜60kHz(-3dB)の帯域幅を持ったPro iESLのトランスは、JASの「ハイレゾ」ロゴの要件をはるかに超えています。
要約すると、エレクトロスタティック型ヘッドホンに求められる高電圧を生み出すために、Pro iESLはカスタムメイドの、最高品質の「ピンストライプ・パーマロイ・コア・トランス」(PPCT)を使用しているということです。
・超ワイドな帯域信号:10Hz〜60kHzを実現
・完璧にリニア:低信号レベルから高信号レベルに至るまでリニア
・トランスにおいて極めて重要な要素となるコアは、GOSSとミューメタルのハイブリッド仕様。伝統的なコア(GOSSであろうとアモルファス鉄であろうと、あるいはこれらと同等の素材であろうと)と比較すると、これによって歪みが劇的に低減されることが分かります。
・過度な共鳴や帯域の制限なしに高いステップアップ率と素性の良さを組み合わせるために、私たちのカスタム・トランスは、垂直セクション及び水平セクションに複雑なマルチセクションの巻き方を採用しています。要求されるパフォーマンスを生み出すには、極めて細いワイヤーを精確に、ぎっしりと巻かなければなりません。
この複雑な巻き方と並外れたコアを組み合わせることによって、「あらゆる」レベルに対応できるトランスを生み出すことができます。歪みという欠陥もなく、オーディオ帯域をはるかに超えた領域でも色づけのない、完全にフラットな周波数レスポンスを実現しているのです。
パフォーマンスの点では、こういった並外れたトランスのみが最良のトランスレス・アンプに近づくことができ、さらにそれを超えることさえできるのです。
※エキサイティングなエナジャイザー(2)へ続く