AKG「K812」「N40」で試聴
待望の水樹奈々ハイレゾをCDと比較試聴! 名門ブランドのハイレゾ対応モデルでサウンドレビュー
・「Synchrogazer」(『戦姫絶唱シンフォギア』OPテーマ)
歌が作中でも重要な構成要素であるため、印象的な楽曲が数多く誕生している『戦姫絶唱シンフォギア』の1作目オープニングテーマである。スピーディーなEDMであり、リズムの切れ味とスカッとヌケ良く浮き立つボーカルの対比が醍醐味だ。
K812で聴くCD音源では、弾力良いベースとコーラスワーク、高域帯で響くシンセサイザーの爽やかな旋律がキレ良く飛び込んでくる。ハイレゾ版では刺々しさがないスムーズなサウンドとなり、ボーカルもしなやかで、水樹奈々のヴィブラートも丁寧に表現する。ベースの重心が下がるものの、輪郭を強調するのではなく密度感で描くようなかたちとなり、シンセサイザーの中低域部の旋律とともに重厚さが増す。
分離良く伸びやかに浮かぶボーカルと独特なディレイ+リヴァーブを組み合わせた余韻感のONとOFFの差がはっきりとしており、声のボトム感もCD音源より増えて安定感がある。2コーラス目冒頭から入るストリングスも厚みを持たせ、他の音色との分離感、描きわけも明瞭だ。
N40ではよりベースが直接的かつリッチに響くが、CD音源では低域はタイトな密度感を持たせ、全体的にシャープでエッジの利いた描写とする。一方のハイレゾ版ではベースが一段低くまで豊かに伸びていき、どっしりとした安定感を作り出す。
CD音源ほどタイトではないが、他の音色との分離度も高く、個々のパートが自然に引き立っている印象だ。ボーカルも艶良く滑らかで口元のニュアンスが生々しく伝わってくる。
・「BRIGHT STREAM」(『魔法少女リリカルなのは The Movie 2nd A’s』主題歌)
TVアニメシリーズを含め、名曲の多い『魔法少女リリカルなのは』シリーズの中でも人気上位に食い込むであろう楽曲がこの「BRIGHT STREAM」だろう。スピード感もあるが、何よりもストリングスをはじめ、生楽器のリアリティがポイントとなっている。
K812で聴くCD音源は、楽曲の大事なウェイトとなっているストリングスのシャープでキレ良い鮮やかさ、ボーカルのくっきりとした輪郭感、リズム隊のスマートで引き締まった音像が全体のクリアさ、タイトなスピード感を生んでいるかのよう。
ハイレゾ版ではイントロのピアノから低域方向の伸びやかさが違い、ストリングスもレンジが広がり安定感、存在感が増している。ボーカルの潤いや口元の微細なニュアンスもしなやかに描くので、CD音源のクールさとは違う暖かさを実感できるだろう。リズム隊のドラムやベース、そしてエレキギターの粒立ちの細かさも誇張なく鮮明に伝わってくる。
N40で聴くCD音源は、たくましく楽曲をドライブするベースが、ボーカルと同じくらいの存在感を放つ。ストリングスのキレ良く爽やかな旋律と、細身でスッキリとしたボーカルの明瞭さによってメリハリ良いゴージャスなサウンドとして描き出す。
ハイレゾ版ではベースが弾力良く躍動感あるプレイに変化し、エレキギターのピッキングも明確になってきた。キックドラムとベースの描きわけ、スネアやシンバルの響きも見やすい。ボーカルはシャープなタッチではあるものの、口元の動きの滑らかさが増してよりナチュラルな雰囲気となっている。ストリングスの旋律も厚みがあり、音数の多さがより自然に伝わってきた。バンドによるロックサウンドの生々しさがより良く表現されている。
・「HOT BLOOD」(『バジリスク〜桜花忍法帖〜』EDテーマ1)
『THE MUSEUM III』における目玉の新録曲の一つ。先だってTVアニメがスタートした『バジリスク〜桜花忍法帖〜』のエンディング曲だ。作品世界に寄り添う和風ロックであり、水樹奈々の醍醐味ともいえる “こぶし” がよりフィットした曲調である。
K812によるCD音源は、くっきりとした明瞭なサウンドで、リズム隊は弾力をほんのり残し締まり良く表現。ボーカルはクールなエッジを際立たせたシャープなタッチで、Bメロのゆったりとした箇所で感じるリヴァーブの広がりが妖艶感を作り出している。サビに入る一瞬のブレイクの切れ味の良さもスピード感の演出に繋がっているようだ。エレキギターのフラッシーなプレイも鮮やかに決まる。
ハイレゾ版ではボーカルの肉付き感が増し、生々しさがより前面に出てきた。こぶしの利かせ方もより緻密で、他パートとの分離も自然なため、コーラスの重なりも歯切れ良い。エレキギターのリフも中低域の密度が増すことでコシあるプレイ感に繋がっている。ドラムの音の生々しさ、ベースの制動良い厚み感がリッチなロックサウンドを形成。重心の低さがバンドのグルーヴ感を何倍にも引き上げているようだ。
N40のCD音源はラウドなロックサウンドという印象で、ジャキジャキとしたエレキギターのプレイ感と、リズム隊の密度良く引き締め押し出す量感が絶妙なコントラストを描き出す。ボーカルは鮮度良くクールな輪郭で描かれセンターへシャープに浮き立つ。実に爽快なサウンドだ。
ハイレゾ版では和楽器の質感の粒の細かさ、ギターワークの丁寧さが引き立ち、大人なロックという印象に変わる。各パートがほぐれよく左右に広がり、ドラムやベースも幾分ふくよかに表現。ボーカルは肉付きを増しているが、ヌケの良さ、分離感は十二分に保たれている。口元の動きやこぶしの表現がより鮮明に掴めるので、表情の豊かさも数段増しているようだ。
特にハイレゾ版は、耳元に近いイヤホン/ヘッドホン環境でより違いが明確に感じ取れる。CD音源も決して悪いものではなく、スピード感や切れ味、爽快さという点ではハイレゾ版以上の満足度が得られるだろう。
またハイレゾ版はコンプレッション感から幾分解放された、伸びやかさを持ったリッチなサウンドとなるので、水樹奈々の声質、歌唱の技、アーティストの持つ魅力をマクロなレベルで楽しめることだろう。聴き込むごとに楽器の音色やアレンジの妙も理解しやすいので、より深く楽曲の世界観を味わうには断然ハイレゾ版の方が優位だ。
今回試聴に用いたAKG「K812」ヘッドホンや「N40」イヤホンのような、ハイレゾ対応の高品位な製品であれば、なおさらその違いが聴き取りやすい。従来の音源を聴き込んできたファンにとっても、新しい発見があるはずだ。少し高めだが、ハイレゾの良さをじっくり楽しみたいという方にはぜひオススメしたい。
いずれにしても聴く環境や気分によってこの二つの音源を使い分けたいほど、それぞれのサウンドに魅力があることは確かだ。ぜひ過去のマテリアルを含め、水樹奈々の作品をもっとハイレゾで味わってみたいと感じた試聴であった。