充実のヘッドホン出力も魅力
ティアック「UD-505」レビュー。とにかく “音が良い” 多機能USB-DAC/ヘッドホンアンプ
そのサウンドは背景が実に静かで、そこに各音像が明確に定位。駆動力は相当に高く、音の表面の細かな凹凸までをきちんとグリップしている。ヴォーカルの倍音の感じやコーラスの分厚いハーモニー感が素晴らしい。クラシックでもボリュームは-20.0dB程度。HD650でこの出力なので、よほど能率の低いスペックのヘッドホンや、帽子を被った上からヘッドホンをするような使い方をしない限り音量不足になることはないだろう。
非常に高い分解能を持ちつつ、しなやかな音として鳴らしているのが見事だ。各パートの演奏のそれぞれが聴き分けられるし、それぞれを対等に聴かせようという客観性と、同時に無機的な音ではなく、音楽を聴かせるのにふさわしい音色感を持っている。最低域まで、いやおそらくそれ以下まで余裕を持った駆動力があるので、最低域の立ち上がりの肩がきちんと見えてくる。
続いてbeyerdynamicの「T1 2nd Generation」。まずは純正ケーブルを使って「1」の通常の接続方法で聴いてみると、ゼンハイザーよりも濃密な感じがありつつ、同時に高域の倍音が多めで、微妙に華やかな音色感を持っている。シンセベースの剛性感が高く、そのビートの刻み方や弾力的な質感が気持ちいい。ヴォーカルは倍音成分が多めな分、繊細感やディテールの微妙な描き分けが特徴的。リードヴォーカルとセルフコーラスの立体感など、ミックスダウンの作業で作った意図以上に明確に見えてくるし、その鳴り合うハーモニー感も素晴らしい。
DSD音源の『BOW』やライブ音源では、収録した現場の空気感やステージ上の臨場感がよく出てくる。高域の倍音成分の若干の多さが、繊細感やライブ盤としての雰囲気の良さにつながっている。
続いてT1 2nd GenerationのケーブルをORB製のバランス接続用のリケーブルに交換。「2:6.3mmステレオ標準端子2つを使ったバランス接続」の聴き方でテストした。このリケーブルは導体に純国産高純度銅を使っていたり、オーディオグレードの端子を採用するなど、純正のケーブルとは単純な比較はできないが、それでもバランス接続の音の方向性は感じさせてくれるだろう。
印象としては音のキメが細かくなり、ミュージシャン同士の間にある空間がより広くなった。いわゆる彫りの深さが増して、音がしっかりしてくる。たとえば打ち込み主体のサウンドでもそれぞれの音像の造形力が増し、低域の重み表現や3次元的なボディ感につながってくる。クラシックでもサウンドステージが立体的なニュアンスを持ってくるのが素晴らしい。
ただし、UD-505にはバランス接続自体にも2つのモードがある。インプレを記した通常のモードと、もう一つはアクティブ・グランドというモードだ。比較してみると、アクティブ・グランドの方が若干音像が大きくなり、音場がセンターにまとまる傾向を持っている。音の背景も静かで、剛性感も微妙に高くなる。それから通常のバランスのモードにすると、左右に音場が広がって空間の見通しが多少良くなる。
個人的にはアクティブ・グランドの方が好きだが、ソフトやジャンルによって使い分けるべきものかもしれない。なお、ヘッドホンをしたまま音を鳴らしながらモードを切り換えると、一旦音がフェイドアウトして、そしてモードが変わってフェイドインするので、ノイズが出ることなく納得いくまで比較できる。
メーカーの説明によれば、アクティブ・グランド方式はバランス接続の原理でコールド側をグランドに接続、アンプ回路によって強制的にグランドをドライブして0Vに近づける駆動方式という。電源から来るハムノイズの影響を抑える効果やノイズフロアを下げる働きを持っていると説明されている。
その他アップサンプリングの機能があり、クラシックのソフトで試してみると、ホールトーンの響き成分が増えて、音の感触がやわらかになった。ただ曲によっては、しなやかさが増して低音の量感タイプの成分が整理されてしまう傾向もあった。これらもソフトや好みによって使い分けるといいだろう。
様々な使い方でテストしたが、音のエネルギーの高さや濃密さ、多彩な再現性など、UD-505は価格をはるかに上回る力を持っているように感じた。現在のハイレゾデータの再生がここまでのクオリティに到達している、というのを体感できる製品だ。カタログを見ると、そのコンパクトさや多機能さということに多くの説明が費やされてしまうが、“音の良さ”で勝負できるUSB-DACプリであり、ヘッドホンアンプと紹介したい。
(鈴木 裕)