ピュアオーディオクラスのサウンドを実現
パイオニア「UDP-LX800」レビュー。“別格の音質”を手中にした旗艦UHD BDプレーヤー
映像メディアの再生音も基本的な音調は音楽ソースと共通である。歌劇『カルメン』のアレーナ・ディ・ヴェローナでのライブを再生すると、屋外公演ならではの開放感あふれる空気感をリアルに再現し、特に合唱の伸びやかな広がりが強い印象を与える。カルメンを演じるセメンチュクの歌唱は中低音域に独特の凄みがあり、高音も別格というべき太さと柔らかさをたたえる。歌手それぞれの声の特色をここまで忠実に引き出すのはかなり難度が高いのだが、この表現力にはオペラファンも納得するはずだ。
ハンス・ジマーのプラハ・ライブもアリーナでの収録だが、こちらは広大な空間に浸透する力強い低音が聴きどころだ。太いベースにパーカッションの動きが埋もれず、コーラスやストリングスの旋律が意図通りに浮かび上がってくるかどうかにも耳を傾ける必要がある。
LX800でトランスポートモードをオンにした状態で再生すると、音数が増えて全チャンネルの音圧が高まった頂点でも各パートのバランスを保ち、ギターやヴォーカルのメロディが埋もれることはなかった。そうしたバランスの良さに加えて、サラウンド音響のサウンド全体の統一感や音の塊感も忠実に再現していることが重要なポイントだ。
映画『オデッセイ』で主人公マークが事故に遭う場面では、砂嵐やエンジン音など、360度全方向に展開するエフェクトの包囲感をリアルに再現し、どの方向にも隙のない高密度な音の存在を実感することができた。激しい砂嵐に声がかき消される様子も生々しく再現するが、重要なセリフが埋もれてしまうことはなく、声が痩せ細る不安もない。繊細な要素を描きつつ基本的には骨格の安定した音作りを目指すのが映画音響の基本だが、LX800の音調はまさにその方向に合致していると感じた。
『ダンケルク』冒頭シーンでは静寂を描き出すS/Nの良さに感心させられた。音楽や効果音を多用せず、あくまでリアルな現場音で現実感を引き出す手法を貫いた作品だけに、静と動の対比が重要な意味を持つ。息を呑むような静寂を突如破る銃撃音が緊張を一気に高め、その場面の状況を音で雄弁に物語る。静寂のなかに潜む緊張を忠実に再現すると同時に、銃弾の鋭く破壊的なエネルギーをありのままに伝えることが肝心だが、LX800はその両方を見事に再現してみせた。
パイオニアの光ディスクプレーヤーは世代を重ねるごとに確実な進化を遂げてきたが、その進化の大きさや方向はそれぞれの世代ごとに軸が少しずつ異なっていた。UHD BD再生の頂点を目指したLX800は特に音質面で著しい成長を遂げており、下位モデルのLX500と比べても別格というべき表現力を獲得した。音楽だけでなく映画でも不可欠なそれを一言で表すとすれば、「細部と全体が両立した表現」がふさわしいだろう。
(山之内 正)