連続レポート<後編>
マランツ「SA-12」のオリジナルDACを自分好みに追い込める、“24通りの音質カスタマイズ”を検証
マランツ試聴室に設置されたSA-12(写真右)
ここで紹介した各設定ごとの音色や立体感の変化はあくまでも平均的なもので、すべての音源にあてはまるわけではなく、組み合わせによっても異なる結果が生まれる可能性が大きい。24通りもの設定があるので、方針を決めずに変更していくとどれが一番好ましいのか判断が難しくなるおそれもある。
まずは聴き慣れた音源で実際の音の変化を確認して好みの設定を選び、さらに別の音源を聴くときには一部の設定を変える程度の微調整にとどめ、音色変化の傾向をつかむという方法をお薦めしたい。
■試聴室で実際に各種設定を変えながら音質を確認した
設定変更は再生中にも行えるのでリアルタイムで変化を確認できるが、微妙な変化を聴き取るには同じフレーズで聴き比べる方が良い場合もあるので、再生音を確認した後に設定を変え、もう一度同じ場所を聴くという操作を繰り返すのも良い方法だ。
なお、変更は切替後すぐに反映されるが、いまどの設定で聴いているのか設定内容を表示する機能は用意されていない。唯一の例外はデジタルフィルターで、本体ディスプレイ左上に表示される数字(1または2)で確認できる。
ここからはマランツ試聴室で実際に各種設定を変えながら確認した結果を紹介していこう。使用した音源はジャズヴォーカルとオルガン伴奏の合唱で、前者はパーカッションの立ち上がりや声のなめらかさ、後者は合唱のハーモニーが広がる空間描写やオルガンの音色などが主なチェックポイントである。どちらもハイレゾ音源(FLAC 192kHz/24bit)を使用。スピーカーにB&Wの800 D3を使ったこともあり、音色や音場の僅かな変化も漏らさず聴き取ることができたように思う。
<デジタルフィルター>
まずはデジタルフィルターの設定だが、これはジャズと合唱で異なる結果になった。前者はFilter 1の方がドラムの粒立ちやベースの切れが良く、動きのあるリズムに乗ってヴォーカルの発音も軽快さが増して声が前に出てくる。Filter 2に切り替えると演奏が前に進む感覚やリズムの推進力がやや緩む印象があるが、ヴォーカルの潤いやなめらかさという点ではこのポジションにも魅力がある。ここではリズムの切れの良さを選んだが、声については他の項目で微調整できるかもしれないので、とりあえず次に進めることにした。
オルガン伴奏の合唱はFilter 2の方がハーモニーの柔らかさを引き出しやすく、オルガンと声が溶け合う雰囲気や教会の空間に浸透する低音の余韻にリアリティが感じられた。Filter 1の方が歌詞の発音は若干明瞭に聴こえるが、Filter 2に変えても鮮明さを保っているし、響きが曖昧になることもなかった。
<ノイズシェイパー+レゾネーター>
次にΔΣ変調の処理を選ぶノイズシェイパー+レゾネーターの設定を切り替えてみる。ここでの音色の変化はかなり微妙なので、聴き比べるポイントを絞り、集中して音の変化に耳を澄ます。
ジャズヴォーカルは4種類の設定を1サイクル聴いただけで好みのポジションを絞り込むことができ、プレーヤーのデフォルトと同じ3rd-1を選んだ。リズム楽器の鮮度を保ったままヴォーカルの表情を引き出すという点で他のポジションよりもバランスが良く感じられたし、理論上は高S/Nとされる4th-1よりもドラムとベースの音像が明瞭で、声や楽器のイメージに3次元の立体感が出てくるのだ。
負帰還の次数を4次に変更すると一音一音の質感が上がる半面、音像の浮かび方や楽器同士の関係に注目すると、あと一歩精度を上げたくなる。レゾネーターの効果についてはこのソースではそれほど大きな変化はなかったが、どちらかというと4th-0の方が聴き慣れた音に近い。