【特別企画】筆者愛用のオリジナル「WE-407/23」と比較
サエク「WE-4700」はオリジナルを超えたのか? − トーンアームの新旧銘機を比較検証
今回はフォノイコライザーアンプにラックスマン「EQ-500」を接続、カートリッジにフェーズメーション「PP-2000」を取り付けて試聴を進める。このカートリッジは自重が14gを超えているため、アームに付属する重い方のウェイトを取り付けてバランスを調整。ウェイトを付け替えることで、シェル込みで10〜35gの広範囲のカートリッジを取り付けることができる。この仕様もオリジナルと共通なので使いやすい。
以前に比べて針圧が重いカートリッジが増えたことに対応し、針圧調整の目盛が3gまで拡張されたことも改善ポイントの1つだ。高精度なデジタル針圧計も便利だが、従来モデルと同様、アーム本体だけでもかなり細かい調整ができる。
■低音のクリアさ、重心の低さを実感。加えた改良が音質にも表れた
WE-407/23であらためて再生音を確認したあと、WE-4700に交換して同じレコードを聴く。アルネ・ドムナルス・カルテット『ジャズ・アット・ザ・ポーンショップ』(Proprius盤)から「テイク・ファイブ」を再生すると、演奏が始まる前の会場のノイズや拍手の生々しさがまず違う。ざわめきから伝わる会場の雰囲気がリアルで、サックスやピアノのアタックが一段階クリアに立ち上がるのだ。高揚感が強まるにしたがって音の勢いが加速し、温度感が上がっていく様子も驚くほど生々しい。
楽器の実在感が上がって音像が前に出るだけでなく、ソロ楽器の背後で控えめにリズムを刻むドラムの1音1音まで克明に描き出し、さらに演奏中の聴衆からの反応までリアリティが感じられる。フォーカスが合っている楽器だけでなく、その奥で旋律を支える楽器や聴き手の存在が一体となり、臨場感が高まっていくところが新旧の最大の違いだ。一言で言えば情報量が多いということなのだが、一番感心したのは絶対的な解像力の高さ以上に、その豊富な情報をバランス良く聴かせることだ。
楽器の数が増えても細部と全体のバランスの良さは変わらない。オーケストラ作品のなかでも編成が特に大きい『ストラヴィンスキー:春の祭典』を、小林研一郎指揮ロンドンフィルの演奏(Exton盤)で聴く。マスターが11.2MHzのDSD録音ということもあり、手前の弦楽器群から奥まった位置の打楽器群まで、前後左右の遠近感を忠実に引き出し、楽器間の位置関係が手に取るようにわかる。第2部のクライマックスでは大太鼓とティンパニの打撃に強いインパクトがあり、しかも一番低い音域から倍音まで1音1音の音像にぶれがない。
アームを支えるベースの重量が大きくなったので、芯のある低音とガッチリとした安定感を引き出し、オーケストラ全体の重心が下がることはある程度予想していた。だが、その安定感に加えて、音圧の大きい低音が鳴った直後でも木管や弦の精妙な音色がにごることがなく、澄んだ響きで立ち上がることにもっと驚かされた。
この部分は前の音の余波を微妙に引きずって見通しがくもることが多いのだが、WE-4700で再生するとくもりやにじみが一掃され、すっきりした音場が広がるのだ。アームを構成するパーツの一体化を進め、細部の共振を徹底して排除したことの成果だろう。
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