【特別企画】筆者愛用のオリジナル「WE-407/23」と比較
サエク「WE-4700」はオリジナルを超えたのか? − トーンアームの新旧銘機を比較検証
クルレンツィス指揮ムジカエテルナの『モーツァルト:ドン・ジョヴァンニ』(Sony盤)を聴くと、声のイメージの立体感が向上し、ピリオド楽器ならでは立ち上がりの鋭さがいっそう際立って聴こえることに気付く。そうした演奏・録音の特徴はWE-407/23もかなり踏み込んで再現しているのだが、クルレンツィスの演奏にはさらにその先を志向するような強靭さがあり、その意志の強さがレコードの音溝には確実に刻まれている。つまり、再生装置の再現性を追い込むほど、演奏にひそむ指揮者や歌手たちの意図がより鮮明に浮かび上がり、説得力が増すということだ。
WE-4700は再生システムの一角を占める存在でしかないが、レコード再生においてトーンアームが担う役割は思いがけず大きい。特に低周波での共振は全帯域にわたって再生音に影響を及ぼすことがあり、声や弦楽器の音色には少ならからぬ変化を引き起こしかねない。WE-4700のように細部にわたって入念に振動をコントロールすれば、その影響を最小に抑えることができる。
発売時期に30年以上の時差がある新旧2世代のトーンアームを聴き比べるのは貴重な経験であり、得るところが大きかった。WE-407/23の音は、独自のダブルナイフエッジ構造をアナログ的ノウハウで究極まで追い込むことで実現していた。それを現代に甦らせることを目標としてWE-4700の開発が進められたわけだが、そのプロセスは予想以上に厳しいものだったという。
多くの手間をかけていたとはいえ、オリジナルモデルが到達していた性能は非常に水準が高く、当初はそこに追いつくのは容易ではなかった。各パーツの構造や素材、加工方法まで吟味し、さらに各要素が音質に与える影響を検証。それらの知見をベースに最終的なバランスを追い込む作業を重ねた結果、あるところでオリジナルを越える音が出てくるようになった。
実際に立ち会ったわけではないが、おそらくそんな経過をたどることで、WE-4700の音が決まったのではないだろうか。そのプロセスに関わった開発陣もまた大きな成果を得たことは間違いない。
(山之内 正)