オーディオの常識を覆すフレンチブランド
「DEVIALETを最も多く売った店」で聴く、その魅力。川又利明氏(ダイナミックオーディオ)×山之内 正対談
■ハイエンドオーディオに不可欠な音楽的な静寂
この日試聴したのは、現在のデビアレのメインシリーズであるEXPERT PROのデュアルモノ・システムとなる「EXPERT 1000 PRO DUAL」(¥4,190,000/税別)。今回は2ペア用意し、川又氏のレファレンスとも言える2つのスピーカーシステムを駆動する。
用意されたスピーカーは、HIRO ACOUSTICの「MODEL-CCCS」(¥22,480,000/税別、ペア、ネットワーク、専用ケーブル付属)とY'Acoustic Sysytemの「Ta.Qu.To-Zero」(¥29,800,000/税別、ペア)は、いずれも日本の物作りの技術と徹底したサウンドチューニングが高度に融合したスピーカーである。EXPERT PROはUPnPやRoonReadyを始めとしたネットワーク再生やUSB再生にも対応するが、今回はエソテリックのSACD/CDプレーヤーからS/PDIFで接続するという再生経路となる。
川又氏は「良いスピーカーはさらに良く、ダメなスピーカーはさらにダメになる」とデビアレのアンプとしての性能を話すが、実際の試聴ではまさにこのHIRO ACOUSTICの持ち味である極めて高解像な音、Ta.Qu.To-Zeroが柔と剛が見事に融合した音という、ひとつのオーディオシステムの到達点とも言えるべきサウンドを再現している。
いずれにも共通するのが、録音場所の広さを感じさせるような豊かな音情報と、天井の高さまで見えてくる三次元的な表現力。そんなスピーカー達を駆動しているのが、この厚さわずか40mmのシステム×2台であるとは、にわかに信じられない。
川又氏にとってデビアレの最大の魅力は、何よりも「音楽的な静寂」を実現した独自のテクノロジーにあるようだ。
川又: 「私がデビアレに興味を持った最初の理由というのは、『Analog Digital Hybrid(ADH)』という伝送方式だったんです。以前、私はとあるアメリカのブランドのアンプに非常に魅力を感じまして、90年代に盛んに販売させていただいたのですが、そのブランドがある時にパワーデバイスを変えてきたことがありました。せっかくいままで優秀なアンプを作ってきたノウハウ、技術があるのに、一番肝心なパワーデバイスをICに変えてきたんですね。
なぜ変えたのかというと、作った本人は「ノイズフロアが非常に低い」と話すわけです。ただ、アンプの製作者がいう「ノイズフロア」というのは、私からするといわゆるハイエンドオーディオにおけるノイズリダクションじゃないか。そう思えるような現象があったんです。
いま聴いていただいてお分かりいただけたかもしれませんが、空間を表現したり演奏の余韻を表現したりと、非常に微細な部分がハイエンド・オーディオには必要なんですね。このアメリカのブランドが採用したパワーデバイスですと、確かに“カッチン”、“シャッキン”、“ドッカン”というのはでるんですけど、この“カッチン”のあとに“シーン……”があったり、“ドッカン”のあとに“ズーン”があったりという余韻がなくなってしまっているように感じたんです。
「同じアンプの開発者が作っているはずなのに、こういう方向で“ノイズフロアが良い”と話しているということは、音楽性の余韻の部分をノイズとして捉えているのかな」というように私は感じたんです。
デビアレを始めた当時からのADHというテクノロジー自体は10年経ったいまでも変わらないものですが、そのクラスAのアナログの純粋な伝送方式と、クラスDの電力を増幅してスピーカーをドライブするというパワーアンプの部分。初めて聴いた時、この両方があって価値観に疑問を覚えていたデジタルアンプに光明をもたらしてくれたんです。つまり、その音質に着目したのが一番ですね」。
当時、川又氏が感銘を受けたのはD Premierというモデルだった。デビアレは当時から同じデザインコンセプト、同じテクノロジーを採用しながらブラッシュアップを続け、「EXPERT PRO」というシリーズへと進化を遂げている。
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