【特別企画】鈴木裕氏がその音に惚れ込み自宅へ導入
音楽を聴く愉悦を感じさせてくれるスピーカー ― ソナス・ファベール「Electa Amator III」導入記
■パワーを入れるほどに音楽が生き生きとしてくる
そして、半年近く鳴らしてきて分かったことは、これだけ低域のレンジが広いとか中高域の鮮度の高いシズル感がいいのにも関わらず、中域の存在感が大きいスピーカーである点だ。ヴォーカルものを聴いてもそうだし、大編成のオーケストラもドンシャリにならない。
もっとも分かりやすいのはビル・エヴァンス・トリオの『ワルツ・フォー・デビイ』だ。このライヴ盤のLPを出版社やメーカーの試聴室でもよく使うが、うちで聴くとエヴァンスのピアノの存在感がだいぶ違うのだ。ふだん接しているオーディオの印象だと、ウッドベースのスコット・ラファロとドラムスのポール・モチアンのプレイが積極的に前に出てきて、エヴァンスはちょっと消極的というか、控えめに感じるのだが、Electa Amator IIIで鳴らすと、ピアノプレイも彫り深く、イメージの印象も強い。ベースやドラムスとバランスが取れている。
ジャズ評論家であり、オーディオファイルの寺島靖国氏に『季刊・アナログ』誌の取材で秋口に聴いてもらったが、その印象を書かれた文章から引用させてもらうと「ビル・エヴァンスを男にした」という表現になる。念の為に、ビル・エヴァンスを前に出そうとセッティングしたことはない。さまざまなソフトを良く鳴るようにチューニングしていった結果、そういう鳴り方になった。これが本来の演奏バランスなのだという説得力があるし、音楽にとって大事な中域をきちんと鳴らせる2ウェイである。
別の面から言うと、これも何人もの人から言われていることだが、もっと大きなスピーカーが鳴っているような感覚がある。その気になって大きめの音量で再生して破綻しないスピーカーで、破綻しないと言うよりもパワーを入れるほどに演奏(音楽)がますます生き生きとしてくる。
ちなみに拙宅のパワーアンプは真空管方式(845のプッシュプル)で、出力は70W。そのクリップする手前までの音量ではあるが。ソナスの推奨するパワーアンプの出力としては、35W〜200Wという表示で、この数値からも結構な大音量再生ができるトランスデューサーなのが伝わって来る。実際、2019年6月のOTOTENのイベントにおいて、オーディオ評論家の藤岡 誠氏がかなりの大音量でこのスピーカーを鳴らしていたのに遭遇したこともある。ジャズのビッグ・バンドが吠えていた。
低い音量でも浸透力の高い、音の形の崩れない再生音を聴かせてくれるのも魅力だが、たしかにある程度パワーを入れた時のシズル感には突出した魅力を感じる。ソナスはもともと木の響きを大切にするスピーカー作りを行なってきたが、Electa Amator IIIにおいては「木、石、真鍮、皮革、アルミ、鉄」といった部材から構成されるエンクロージャーとスタンド、そしてシルクのソフトドームやパルプ系の振動板という昔から使われてきた振動板が総合して絶妙な響きを生み出しているからではないかと考えている。
響きというとちょっと曖昧な言い方になってしまうが、そのストローク量は少ないにしてもやはり各部材が”振動”して再生音に寄与する成分が発生しているんじゃないだろうか。